イシグロ作品・続
忘れられた巨人(早川書房)
こちらも現在、貸出中
物語の舞台は前回紹介した「日の名残り」同様、英国ですがその風景はうってかわります。
岩だらけの丘、荒れた野、冷たい霧が立ち込める川や沼、そのうえ鬼たちが隠れ住んでいる。でもこちらが挑発さえしなければ特に悪さをしない鬼の存在よりも、人々はその日の食糧の調達、恐ろしい病といったもっとやっかい事をたくさん抱えている。
丘の斜面に掘った深い横穴で暮らし穴同士を地下通路で結んだ、まるでウサギの巣穴のような、それがこの土地の村だ。
そんな描写で始まる物語はあのアーサー王統治後のブリテン島を舞台に、伝説の設定を活かしたその後の物語です。(アーサー王物語とは欧州では昔から語りつがれるブリテン島の伝説をもとにした中世騎士道物語)
何かの理由でこの世界の唯一の灯りであるロウソクを使うことを許されず村のはずれに住むアクセルとベアトリスという老夫婦は、村を去った息子に会うための旅に出ることを決心します。でもその手がかりは何もありません。手がかりどころか、息子の顔も声も、この村を出て行った理由もわかりません。
でも彼らだけでなくこの国の人々は、起きたこと、存在した人、過去の記憶が次第に薄れていくのです。憎しみの記憶も、愛を育てる思いやりの記憶も等しく分け隔てなく。
大地を包む謎の霧の中、様々な人達に出会いながら、いたはずの息子に出会うための2人の旅が始まります。