第五十三回卒業式
卒業後すぐに就職し社会に出るのが普通だった頃と違い,今は多くの者がまだ暫くは学生でいられる。環境ががらっと変わるわけではないので別れの言葉や激励の言葉がぴんと来ないのは無理からぬことかもしれない。しかし,学生を続けるにしても,すぐに社会に出るにしても,一生懸命生き,一生懸命働いていって欲しいと願う。
こんな例がある。Macコンピュータの創始者の一人,スティーブ・ジョブスは,経済的な理由で大学を中退したことがあった。そのとき,たまたま文字デザインの授業を聴講して,手書き文字の美しさに惹かれ熱心に勉強したそうだ。まさかそれが後々Macのフォントを作るときに役だち,コンピュータが売れる原因になるとは思ってもみなかったという。
考えてみれば,我々は,無駄を排除し,効率を求めて勉強や仕事をしがちである。限られた時間の中では,役に立ちそうにない,意味がないと思えるものは避け,手を抜こうとしがちだ。しかし,上の例のように,そのときそのときの課題を一生懸命考えること,取り組むことは必ずどこかで何かの役に立つ。課題一つひとつは点であっても必ず繋がって一本の線になっていく。一生懸命やって無駄になることはないし,逆に世の中に無駄で意味のないものは何もないのだ。
損得を考えるのは後でいい。今を一生懸命生きていって欲しい。