文化祭前日
校内のあちこちからコーラスの声が聞こえてくる。とりわけ女性のソプラノの声が風に乗ってこだます。校長室から見る校庭はいつの間にか合唱コンクールに出場するクラスの塊がいくつもでき、真剣なまなざしと笑顔が交錯した。隣に眼をやると、一人で指揮の練習に励む生徒もいる。合唱コンクールでの指揮者の役割は大きい。校庭の西側は演劇の練習であろうか簡単な舞台装置が用意され、その中で簡単な衣装つけた生徒が行き来している。その隣の息の合ったダンスの練習も、若々しくうらやましい限りだ。
トラックが校庭に到着すると大きな体の男子生徒が体育の先生に指示のもと、荷台から手際よく荷物をおろし、手際よくテントの屋根を9張作った。明朝、立ち上げるだけである。中学棟東館の前では巨大な白い板が横たわった。15メートル四方はあろう。なにができるのだろう。
いよいよ明日は文化祭初日。生徒は最後の準備に懸命だ。きょうは空も久しぶりに晴れ渡り、えんじ色の学校旗も気持ちよさそうに東にたなびいている。校庭の天然芝も夏の間、のびていたが、きれいに刈りそろえられた。あすはここを舞台にどんな思い出が作られるのだろう。
昨日は雲雀丘学園小学校2年生の子供たちが「探検隊」と称し、文化祭準備中の中学高等学校を訪問してくれた。校長室にも「探検隊」25名は押し寄せ、校長を質問攻めにし、金庫の中を開示することを要求、さらには腰痛治療中の校長に何度も抱っこを強要し、その挙句、白板いっぱいに自分たちの名前を記し、「文化祭に来るから」と言い残し、台風一過のごとく立ち去った。私は5年後の大切なお客様と思って一人ひとりに握手し、丁重にお見送りした。昨日までのぐずついた天気が文化祭前日、晴れたのは「探検隊」のせいだろうか。