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企業最前線! 職業人インタビュー(3)

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平田 進也さん
(株)日本旅行 西日本営業本部部長

 ひらた・しんや●1957年,奈良県生まれ。京都外国語大学在学時から,テレビ番組『ラブアタック!』の名物“みじめアタッカー”として活躍。日本旅行入社後も,素人ながら奇抜なキャラクターを生かして『合コン!合宿!解放区』,『おはよう朝日です』,『探偵!ナイトスクープ』などのテレビ組に400回以上出演。豊富な旅行経験と巧みな話術やユニークな変身芸に熱烈なファンも多く,「浪速のカリスマ添乗員」の異名をとる。ファンクラブの会員は1万2800人を数える。大手旅行会社では異例だが,ツアーの企画から添乗まで一貫して担当し,「平田進也と行くツアー」は発売後,即売り切れに。著書に『出る杭も5億稼げば打たれない!』(小学館)がある。
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 ※インタビュー:2004年8月12日

日本一「うるさい」お客さまを徹底的に満足させたい

 私は,旅行会社の営業担当者が売り上げる平均の5倍,年間5億円を稼がせてもらっているところから,「浪速のカリスマ添乗員」と呼んでいただいています。普段は,日本旅行という会社で,西日本営業本部販売部の課長,JR西日本のシニア向け会員組織「ジパング倶楽部」の販売課長,当社の子ども向けの会員組織「トムソーヤクラブ」の関西の事務局長という3つの肩書きで縦横無尽に仕事をしています。というのも,いまは旅行市場が無尽蔵に広がっていて,それを取り込むため。それで,自由に動けるポジションにしてもらいました。添乗は仕事の一部分に過ぎません。旅行を売る仕事は、ツアーの企画から始まって、お客さんの募集、ツアーの添乗、精算まで一連の流れがあるんです。私はホンマはそれをすべて担当するビジネスマンなんです(笑)。添乗員としての姿が表に出やすいし、こうして「カリスマ添乗員」と言っていただいてるので、平田は添乗員やと思われているんですが。また、そう思われる背景には、旅行会社の分業化があると思います。大手の旅行会社ほど、効率化のために企画は企画だけ、添乗員は添乗だけ、という分業化が進んでいるんです。それで、私はいま、分業化のひずみが来てると思うてます。というのは、旅行も価格競争が行きつくところまで行って、分業化で作られた旅行がかえって流し込みの旅行になっている。料金で勝ち負けが決まる世界で、誰がトクするんでしょう。そらお客さんは安いほうがいいかもわかりませんが、ただ安いだけの流し込まれた旅行でホンマに満足するんでしょうか。逆にお客さんを裏切るだけやと私は思うてます。

私のツアーは違います。お客さまは,旅行に非日常を求めて来られるのです。「私たちを満足させてえな」という叫び声があり,そこに納得できたら金は出す,というお客さまはいくらでもいます。ところが,旅行は品物ではありませんので,行ってみないといいか悪いかわからない。「行って悪かった」ではお客さまはもうついて来ません。ですから,私はお客さまが絶対に納得し,満足してもらえるツアーにこだわっているんです。たとえば,イカの活き造りで有名な,佐賀県の呼子にイカを食べに行くツアーは,ただ現地のイカを食べるだけではありません。獲れたてのイカに,小樽からその日のために空輸した日本一のウニをまぜる。それもミョウバンに漬けたウニではなく,味を保つために海水に漬けて運びます。そこへ静岡から取り寄せた究極のワサビを,伊万里焼のワサビおろしですりおろし,1本3000円する,日本の醤油発祥の地である和歌山の湯浅醤油をかけるのです。

 そこまでこだわった演出をして,非日常を求めておられるお客さまに「これだけのものを味わうために,大切なお金と時間を私に預けてくれませんか」とご案内するのです。すると,賛同されたお客さまは「あんたの言った通りや。60年生きてきていろんなもん食べてきたけど,これ以上のモンはなかったわ。今死んでもええわー」と感動して,ついてきてくださる。ファンクラブ1万2800人は,その集大成,私の財産なのです。お金をかければできる,というわけでもありません。旅館に,よそからウニだワサビだと持ち込むのは普通は断られますが,あんたなら仕方ないと快く受け入れてもらっています。また,お客さまが集まるから大量仕入れができ,業者と交渉して安くしてもらいますが,品質は絶対に落としません。熟年世代のお客さまは方々に旅行していて,お客として見る,食べることのプロなんです。こっちは食べさせるほうのプロ。プロ同士の闘いなのです。

 私のツアーが食事中心のものが多いのは,自分自身、食べることと料理が趣味で、会社やめたら料理屋でも開こか思うてます(笑)。会社に入ってから25年間、日本はもとより世界各地のうまいもんを食べてきたんです。それでどこそこの何と何を掛け合わしたら何ができる、ということがひらめくんです。日本の名旅館といわれるところはたいてい泊まり歩いて、厨房まで見せてもろうてます。それで料理の出し方、そのタイミング、器まで見る。そんなところまで見てるの、私だけちゃいますか(笑)。それと、私のツアーは旅行サークルなんです。お客さん同士が仲ようなって顔見知りがたくさん集まる。宴会のときにお客さんの話聞いて回ると、熟年の人は淋しい毎日を送ってはる方も多くて、いろんなしがらみの中で生きておられるんです。それをこの旅行で発散してもらえるんですね。

 ツアーの宴会では,女装して「平田進子」と名乗っています。『大阪で世界一周』いうテレビ番組で「謎のイタリア人」として女装して化粧させらたんです。そんとき、鏡見て「こんな世界もあるんか!」ってハッとした(笑)。場を盛り上げるいうのと、おばちゃんに同性としてぶつかってみたらオモロいかもしれんとやり始めました。違う人格になって、言うことも変えることができるんです。ちょっとでも恥ずかしい思うたら、もうできまへん(笑)。

 私はお客さまの目線でしか考えていません。お客さまをちょっとでも欺いたら,しっぺ返しをくらいます。お客さまを幸せにしようと一生懸命にやると,後から利益は恐ろしいほどついてくる。それに気付いて以来,第一に利益を求めず,お客さまの喜ぶ姿を考えるようにしました。それに大阪のおばちゃんは日本一厳しい。群れると凶暴になる(笑)。悪かったら店の1軒なんて簡単に潰しますから(笑)。逆に、満足いただけたらこれだけ強い味方はおりません。旅行会社は集客がいちばんキツいんですが、お客さんのほうから「次ないの?」と聞いてきはります。野菜や米まで送ってくれる。嫁はんに言うんです、「自給自足できるな」って(笑) 。(後編に続く)

『企業最前線!職業人インタビュー』(キャリアガイダンス@メール,リクルート社)より