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変化する時代に――

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もりなが・たくろう●経活アナリスト。1957年、東京生まれ。東京都立戸山高校卒業。80年、東京大学経済学部経済学科を卒業後、日本専売公社に入社。日本経済研究センター、経済計画庁総合計画局を経て、銀行系シンクタンクヘ。現在、三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員。独協大学教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』ほか。

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――「年収300万円時代」の中、子供に伝えるべきことは?

 私はまず前提として、将来は独立するにしても、転職するにしても、一度は正社員になってビジネスの仕組みをきちんと理解しなくてはいけないと思っています。ただ、そこで重要なのは、「まとも」な会社で数年間過ごすことが絶対条件ということ。たとえば高卒就職の場合、今は社員を使いすてにしてしまう企業が劇的に増えてきています。だから,どこが「まとも」か、きちんと子供たちに教える努力が一番大事です。卒業生の話を聞く、あるいば横の繋がりを利用して情報収集すればいい。地味でも本当に人を育てる気がある中小企業も多い。そちらに進むほうが本人の実力になることを、きちんと伝えるべきです。

――「勝ち組」「負け組」と言われ、上昇欲が上がっている気もします。

 今の世の中、一番いけないのは、両極端で選択肢を迫ること。「勝ち組か負け組か」といわれたら、「勝ち組」と思ってしまう。でも、真実はたいていの場合グレイゾーン、つまり中間にあるんです。実際、私の周囲のヒルズ族など「勝ち組」の人たちは幸せには見えない。いつも,資産が減らないかと不安を抱えていて、まるで病気です。一方で年収100万円の人も幸せに見えない。生死をかけた闘いの日々ですから。
 今の時代、真面目に努力して得られるものは、そこそこ働いてほどほどの暮らしをする、というゴールなんだと思うんです。無理しないで、たまに贅沢なレストランで、ごはんを食べるくらいの幸せを目指したほうが、結果的にはいいと思います。とはいえ、昔ばボーッとしていても「普通」が掴めましたが、今はまじめにきちんと考えてやらないとそれも難しい。いかに「普通」を掴む戦略と戦術をたてるかを、子供たちに伝えるべきでしょうね。

――「普通」の幸せのリアリティを、ご自身が先生ならどう伝えますか?

 たとえば大学で教える中では、実際に見ている大金持ちの人たちがいかに不幸せか、年収100万円生活の人たちがいかに大変な生活をしているか、というのを延々と話しています。そして、普通の暮らし、大陸ヨーロッパの人がしている暮らしのこと、彼らが「普通」でいかに幸せなのかっていうのをずっと話してます。やっぱり実例を話していくしかない。大金持ちはとりあえず六本木ヒルズに行って見てみるとかね。卒業生を見ても、ぼろぽろになってる銀行員とか、リストラされた大企業の社員とか、実例はいっぱいあると思うんです。そういう事例を集めてみればいい。知れば知るほど「普通」が一番いいというのがわかるはずです。目指せ、普通ですよ。

――今の教育については?

 よく「好きなことを仕事に」と言いますが、社会に出たこともないのに、好きなことがすぐに見つかるはずがない。ただ、見つかる生き方と見つからない生き方はあります。
 いつも学生には「絶対に夢を持ってはいけない」と言っています。実現している人は、何かしたいと思ったらその日から始めている。彼らにとってすべての夢はタスク(課題)なんです。だから、今やれないものは永遠にやれない。1ミリでもいいから前進しておけば、必ずものになる。ダメならすぐ引けばいいし、いくつやってもいい。最終的に自分の糧を複数持つことができるんです。

――その一歩が出せない子が多い。

 肩に力をいれずに、まずやってみることですよ。たとえば、カメラマンになろうと、いきなり写真学校に行人がいますが、その前に、まずシャッターを押さないと。先に資格を取るとか、順序が常に逆。
 実は私、カメラマンになりたくて、以前はカメラマンに会うたびに、どうやってなったのか聞いていたんですよ。一番面白かったのは、写真スタジオにバイトで入り込んで、篠山紀信さんがくるのを待ち続けた人。紀信さんが現れた瞬間に足にタックルして、「弟子にしてくれるまではなれません」。はらわれても続けていたら、数時間後に紀信さんが諦めたそうなんです(笑)。だから、写真学校に行くんじゃなくて、篠山紀信の足につかまれ、と。彼の場合、事前に罠も張ってたわけで、その「張る」行為を、まずやらないと。

――タスクなら戦略を考えろと。

 なりたいけどなれない、なんてウジウジしてたらすぐ定年。それは若者も同じです。ダメなら切り替えればいい。踏み出せば結論がでるんですから。

(リクルート社「R-T」Vol.4から)