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あした来る人

 作家の井上靖さんは、唐僧鑑真と彼を日本へ招こうとする2人の青年僧を描いた『天平の甍』やジンギスカンの生涯をドラマチックに綴った『蒼き狼』といった歴史小説で有名ですが、実はたくさんの青春小説・恋愛小説を新聞小説として執筆されています。
 表題に採り上げた『あした来る人』もそんな一つですが、この作品だけではなく、『その人の名は言えない』・『緑の仲間』・『揺れる首飾り』など、井上さんのこのジャンルの登場人物は、主に皆さんよりも10才ぐらい上の人達です。彼らが様々な人間関係を通じて、青春時代から大人へと自らを成長させて行く姿を描いています。そして、井上さんの筆は、彼らの姿を真っ直ぐに清々しく描きます。何だか過剰にドロドロした小説や逆に綿矢りささんのように新しい感覚と筆致で淡々と人間を描く小説が巷には溢れていますが、井上さんの小説は、表面的には静かでも、人間同士が互いに心と心をぶつけ合って、その生を紡いでいくという本来の人間の生き方が描かれているように、私は感じました。
 大学に合格して、時間はあるけど何をしたらいいか分からない。そのような人は、井上さんの青春小説を手に取ってみて下さい。