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ちょっといい話―――――――――――――――――

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朝日新聞土曜日「be on Saturday」のコラム「こころの定年」から。

 三井貴子さん(仮名、49)はビジネス分野の研修講師。勤めていた銀行の破綻を機に5年前に転身した。
 銀行では、まず都心部にある支店に配属された。同期の男性は転勤も頻繁にあったが、女性は全員が事務の仕事で異動もなかった。三井さんは次第に同じ事務処理の繰り返しに飽きてきた。業務検定試験を受験して合格すると、先輩女性のみならず、男性同僚からもよく思われなかった。上司との面談で「転勤したい」と大泣きしたこともある。いつも、新たな世界を見たいと思っていた当時を、「出る抗でしたね」と笑顔で振り返る。
 応援もあった。上司しか出てはいけない電話を、三井さんが取ってしまったことがある。たまたま職場の全員が席を外していたためだ。夕刻、本部から「女性が電話に出た」と次長に長い小言の電話があった。次長は「部下を信頼していますか
ら」とガチャンと電話を切った。その時のことは、うれしくて今でも覚えている。その後、担当の仕事がローテーション化されて、外回りの営業も経験できた。
 チャンスが巡ってきた。男女雇用均等法への対応もあって、銀行は女性行員に業務研修を実施することになった。いろいろな職務を経験し、業務検定にも合格していた三井さんは、人事の研修担当に異動。活躍の場を与えられたのである。
 なのに、銀行はバブルの後遺症で破綻してしまった。しかし、三井さんは銀行員時代に培った経験を生かし、現在は企業などから研修業務を受託している。「70歳まで現役で働きたい」とも語る。「出る杭」となって格闘した経験は、必ず次の道を開いていく。

(ライフ&キャリア研究所   代表・楠木新)