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成功者列伝 3 不死身の銀行マン

 Uは大学の同期生でESSの仲間。学部は私と違って法学部だった。特に親しくなったのはある宗教団体の主催する英語キャンプ。3日間すべて英語で生活すると聞いて、Uに誘われて同級生4人と行ってみた。大学1年の秋である。3日間のキャンプのあと、なんと彼は神を信じることになってしまった。懐疑心の強い私は、「英語の練習にきました」という姿勢を崩さなかったが、純粋でのめり込むタイプの彼はそこで聖書を読むことを決心した。
 そのキャンプの後、我々はバスで伊豆を周遊したが、その間中、彼はキャンプで直された英語の発音を何度も確認する。朝と夜に英文の聖書を開く。英語のことを忘れて遊びモードに入っている私とは大違いだった。
 大学在学中から彼の社会での成功を疑うものはなかった。性格が温厚で安定しているし、集中力があり、恒常的に努力を続けることができる。私は舌を巻いた。一瞬の集中力では私もひけをとらないと思ったが、それを持続することではとても勝てない。気力の差か、体力差か、あるいはその両方か?
 Uは卒業してF銀行に就職した。そこでも早くから頭角をあらわし、選抜されてアメリカの大学院でBusiness Administration を学ぶことになる。既に結婚していたが、1年目は新妻を日本に残して、一人渡米。2年目にやっと奥さんが合流して二人暮らしになる。かなりの覚悟をしていったらしいが、それでも苦しい生活だったという。大学院で毎週だされる課題が半端じゃない。やってもやっても課題は山積みになった。
 先日、Uと奥さんに会って昔話をしたら、やはりこの大学院の2年間が最も苦しい時で、何度も辞めたいと思ったそうだ。2年目に行った奥さんは、彼の勉強ぶりを見て体をこわさないか心配で仕方がなかったという。優秀なヤツは優秀なだけ大きな試練に見舞われるということか。
 Uはエリート社員として、その後、ロンドン、ニューヨークの支店に勤務。4年ほど前に退職して、系列の会社で管理職をしている。現在はシンガポールにある日系企業の社長。相変わらずよく働いているらしい。「仕事中毒じゃないかしら」と奥さんは心配するほどである。
 子供は3人。音楽家あり、商社マンあり。娘に子供ができ、その娘婿がたまたまシンガポールに派遣されているので、娘夫婦と同居している。
 「シンガポールは天国やで。ニューヨークよりは治安がはるかにいい。働きやすい」
 歳とともに髪の毛の大半を失っても、ますます働く男である。(田畑保行)