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成功者列伝 6 若き日の映画評論家

 もうかなり前のことになるが、神戸のメリケンパークに「映画の碑」ができ、その除幕式に参列されたYさんに直接お話をうかがったことがある。Yさんは有名な映画評論家であったが、私がうかがったのは主に旧制中学の頃の話。
 Yさんは、子供の頃からの映画好きが昂じて、旧制中学の学生になっても、時々学校をさぼって新開地で映画を見たという。そのことが学校にばれて、叱られるはめになる。ところがYさんは、その自分を叱っている先生に映画の魅力をとうとうと話し始める。「映画には学校では教えきれない人生に対する様々な叡智がある。これを若者に見せなくてどうするのか」というのが、主な論点であったとか。
 その時のYさんの迫力はきっとすごかったなに違いないし、また、その先生も生徒の言葉に耳を傾ける柔軟な人であったに違いない。先生はYさんが見たという映画を一人で見に行き、結局、ミイラ取りがミイラになって、生徒全員に対する映画鑑賞会が企画されるにいたったと言う。
 学校を卒業後のYさんは、普通の仕事をしながら、映画館通いを続け、映画評論を雑誌に送り続ける。
やがて雑誌社はこのYさんに目をつけ、Yさんは編集者として雇われることになる。以後の活躍は皆さんご存じのとおり。センダンは双葉より芳しの一席。お後がよろしいようで。 (田畑)