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明日の国公立2次試験に備えて

 前回の当番のときはちょうどセンター試験の時で、まだ高三の諸君は登校中でしたが、現在は卒業式も済み、校内から1学年減ったわけですから、諸君の姿を見かけることもまれになり、閑散とした感じは否めません。
 卒業した高三の(元高三と云うべきでしょうが)諸君の現在の情況は様々でしょう。既に去年のうちに望み通りの大学に合格して、進路を決定した諸君は、正月はまさに我が世の春を満喫していたことでしょう。また、2月初旬からの私立大学に合格を果たしホッとしている人もいることでしょう。しかし、まだ望み通りの大学への切符を手に入れてない人、国公立の二次試験を控えている人もかなりの数になるものと思います。

 何といっても今日話題とすべきは、明日の2月25日は、国公立大の前期日程の第一日だということでしょう。そこで、いつもは月曜日から始めるこの進路便りを明日書いたのでは意味があまりなくなるので、今日、まとめて二、三日分書こうと思います。

 さて、いよいよ本番といった感じです。いよいよ正念場です。もうジタバタしても始まりません。腹を括るしかないでしょう。前回の当番のときに受験心得といったものを、箇条書き風に書いてみましたが、今回はその中から、明日に受験を控えた受験生の直前の受験心得といったものを、繰り返しになるかもしれませんが、拾い上げてみようと思います。

 前回の受験心得で知力・気力・体力ということを言いました。知力すなわち学力については明日に受験を控えた身にしてみれば、この期に及んで、これから何かを開拓する時間はありませんから、いままで身につけた学力を遺憾なく発揮するしかないでしょう。「発揮するしかないでしょう」などと簡単に書きましたが、このことは前回「鳥人」ブブカを例にとって説明しましたが、そう簡単ではありません。受験の場合、学力さえあれば何とかなりそうなものですが、実際は思うようにはいきません。学力以外の気力と体力が伴わなければ好結果を得ることは出来ないでしょう。そこでこの気力と体力ですが、これに関して云えば前日でもなすべきことはありそうです。
 気分とか気力というものは案外フラフラしているものです。特に大学受験のようなここ一番というときにはこの「気」の在り方で結果はまるで違ってしまうものです。受験戦争とよばれるこの戦場においては大いに「神経戦」の様相を帯びています。この戦争は自分との戦いでもあります。戦場である受験会場では「敵」の顔はどれも自分より賢そうに見えるものです。むしろ、そういうものだと思っていて差し支えありません。実は「敵さん」も君の顔を見て、気後れがしているかもしれないのです。それやこれやで「気が散って」しまって集中できなくなれば、いくら知識を蓄え知力があってもそれを表現することはできません。
先ほど「腹を括るしかないでしょう」と書きました。考えてみれば、この「腹を括る」とは変なことばです。理屈をいえば、元来腹は括れるものなのか、となります。更に云えば日頃使っている「腹を立てる」という表現からして変です。寝ていれば腹は立たないのかとなればこれはもう落語の世界です。思いつくだけでも、「腹を決める」、「腹を割る」、「腹が据わる」、「腹ができている」と際限がありません。試みに国語辞典を引いてみると「腹」の慣用句の項目にはじつにたくさんの句が挙げてあります。つまり、事ほど左様に我々は昔からお腹の部分に注意が行っていたという事になります。そこに注意が集中しなければこんなに沢山の成句が生まれ、分化するわけがありません。
そこでこの腹ですが、気分を落ち着かせるには深呼吸をすると良いとよくいわれます。昔から「臍下丹田」とよくいわれます。子供のころ、「寒い、寒い」といって騒いでいると、大人たちは「へそ下三寸に力を入れると寒くない」などと言いました。それで言われたとおりにやってみると、確かに少し温かくなったような気がしたものです。

 最近でも健康法、脳科学、長寿法等々の色々な観点からお腹が注目されているようです。座禅の流行は相当以前から世界的なものになっています。最近では特に健康呼吸法として、斎藤孝さんも流行させたようですが、これは元々お釈迦様が2500年も前に正しい呼吸法として説かれたものです。普段やっている胸部中心の呼吸、すなわち肺を肋骨の間の筋肉で横に拡げる胸式呼吸をやめて、横隔膜を上下させることによって空気を吸い込むといういわゆる腹式呼吸をすることにより心身を整える。副交感神経というものは人間の意志ではどうにもならないものですが、この副交感神経の働きに幾分でも意志の力が介入することができるのはこの腹式呼吸というすきまだけだということを、2500年も前にお釈迦様は直観で知っておられた。このことだけでもお釈迦様は大変な人です。
「気」を落ち着かせるのはやはりこの呼吸法が一番だと思います。色々な流儀があるようですが、大雑把にいうと、吸気よりは呼気に重点をおいて、吸気の時間を吸気の時間の2倍くらいにするのが良いというのが一般的のようです。つまり、息を吸っている時間を1とすると、息を吐いているを時間を2にするというものです。こうすることによって平生の気持ちに立ち返ることができます。お釈迦様の推薦だけではない、現代の最先端の脳科学の立証するところです。間違っても、精神安定剤を飲むようなことはやめてください。安定しすぎて鈍くなり、果ては眠ってしまうというようなことになりかねません。

 お腹のことばかり言ってきましたが、お腹の上部には心臓があります。心臓は heart です。そしてハートは「心」でもあります。ところで、「心」といった場合、一方に mind という言葉もありますが、これはどちらかといえば「精神」といった意味合いが強く、mind のありかは心臓ではなく頭です。(もっとも最近では「心」は心臓ではなく頭脳に宿り、頭脳も内蔵といわれるようになってきました)「気」が滅入って「考え」が暗い方、暗い方へと向いていってしまう場合があります。深呼吸をしても色々な考えがよぎって不安になり、どうにもならないことになるかもしれません。こんな場合は、やはり、「考え」に対しては「考え」で対抗する他は無いのかも知れません。この点に関しては、最近よく言われている「プラス思考」で対処するのが一番だと思います。つまり、ものごとには必ず両面があり、光の部分と影の部分があるものならば、光の部分を見つめることによって影の部分を追っ払ったほうが得策といえます。古い話で笑われるかもしれませんが、昔はこういうときよく山中鹿之助という武将のエピソードを年寄りたちは持ち出したものです。この山中鹿之助という悲運の武将は三日月に向かって「願わくば、我に七難八苦を与え給え」と祈ったといわれています。こうして彼はいかなる苦境にも対処出来る心構えを練ったものでしょう。また、年寄りたちはよく「艱難汝を玉にする」とも言い、我々を鼓舞したものでした。こういう風に考えれば、受験戦争という境遇はむしろ自分を鍛えて、強くたくましく育ててくれる絶好の舞台だといえます。そうだとすれば、むしろ得難いチャンスだと考えることができます。ものは考え方次第です。兎に角、強気でいってください。
ところで、さきほどふれた mind には動詞の用法もあります。 Don’t mind! Don’t mind!
と暗示をかけるのも一法でしょう。キニシナイ! キニシナイ!

 次に体力です。睡眠不足では気力は充実しないでしょう。ハイテンションになるばかりで、上滑りしてしまいます。前日は今までの学習の成果のまとめなどのある程度の勉強はして、適度に頭を疲労させておいたほうが安眠には効果的です。明日の試験の時間割に沿って、該当科目のまとめあげたポイントをおさらいするのもいいでしょう。しかし間違っても解けそうもない難問に取り組むのはやめてください。解けないと気持ちが高ぶり不安を増幅させるだけです。
緊張の余り眠れないことはあり得ますが、受験を明日に控えた受験生ならば誰でも多かれ少なかれ起こることで心配する必要はありません。君だけではありません。普段通りの時刻に就寝することです。いつもより早めに床に就くとかえって眠れなくなります。しかし、どうしても眠れないこともあります。こういうとき眠ろうとすればするほど余計眠れなくなるものです。こうなれば覚悟を決めて、目をつむる以外に方法はありません。寝床で目をつむっているだけでも頭は結構休まるものです。

 食事が大切なのは言うまでもありません。「腹が減っては戦は出来」ませんが栄養素にも気を配るべきです。脳を円滑に活動させるにはブドウ糖が必要ですから炭水化物や糖分をしっかり取る必要があります。そのほかにビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEも頭には良いようです。イライラを防ぐにはカルシウムが良く効くといわれます。こういうビタミン剤は錠剤で簡単に摂取できます。もちろん食事は消化のよいもの、胃に負担をかけないものを摂るようにしてください。

明日に備えて:
受験票、筆記用具は言うまでもありません。
弁当は持参する必要があります。不慣れな試験会場で昼食を求めて徘徊するなどということ避けるべきです。
試験会場のエアコンの状態は入室してみなければ分かりません。温度調節の出来る服装が望ましい。脱着できるジャンパーやカーディガンなどを用意しておいた方がいいでしょう。
小銭を含めてお金は多めに持っていたほうがいいでしょう。何が起きるか分かりません。場合によってはタクシーを利用しなければならないことになるかもしれません。
朝は早く起きて朝食はしっかり摂りましょう。試験開始の4時間前くらいには起きて、試験会場には30分前には到着すべきで、余裕をもって試験に臨んでください。

 先程、表に出てみると月は照り映え、小雪が舞っていました。午前零時です。二十日の卒業式には寒気が緩んで温かい一日でしたが、昨日から急に冷え込んできました。厳しい寒さです。しかしこの寒さも身も心も引き締める良い刺激になると考えれば却って好都合なことかもしれません。ものは考えようです。

 それでは明日の奮闘と幸運を祈ります。

 文責: 山本正彦