うま年にちなんで
今年は午年。スタートは馬の出てくる作品の紹介です。
優駿/宮本輝 (新潮社)
「競走馬のふるさと」として知られる北海道日高地方の小さな牧場で、1頭の仔馬が生まれます。
額に白い星印のある漆黒の仔馬。風のように速く、嵐のように烈しく、名馬になる天命を持っていますようにと牧場主の息子に祈られ誕生した仔馬は、期せずして馬主からスペイン語で「祈り」の意味を持つ『オラシオン』と名付けられます。
これはオラシオンがダービーに出場するまでの3年間が描かれた物語。
小さな牧場を営む渡海とその息子・博正、馬主である実業家・和具とその娘・久美子。久美子の腹違いの弟で重い病を患う・誠。長い下積み生活を送っていた騎手・奈良、他にも調教師、厩務員、新聞記者などサラブレッドが誕生するために関わったたくさんの人々が登場します。
そこには、それぞれにドラマがあります。それは家族や親子の絆だったり、淡い恋だったり、実力だけではどうにもならないことだったり。そんな馬を取り巻く人々の人間模様とオラシオンが成長していく様子が、各章ごとに異なる登場人物の視点で語られます。人の夢と祈りが1頭のサラブレッドに託された物語です。
* 宮本輝さんは「泥の河」「蛍川」「道頓堀川」などの川三部作を始め、多くの作品で知られる神戸市出身の作家です。優駿は1989年の作品。