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寺田寅彦という人

 物理学の世界で、近代結晶学が誕生してから約100年、その研究は23ものノーベル賞につながり科学技術の発展に貢献してきました。その業績を記念して今年は世界結晶年に制定されています。

 日本でも物理学者・寺田寅彦が、X線回折の実験を行い「X線と結晶」と題する手紙を1913年に英国科学雑誌Natureに送ったそうなので、日本における近代結晶学も100年の歴史を持っているということですね。

 この寺田寅彦、東京帝国大学の実験物理学者でしたが、文筆家でもありました。同世代の夏目漱石や正岡子規とも交流があり、漱石の「吾輩は猫である」や「三四郎」には彼をモデルにした人物が登場しています。
 「ひどく内容の深いことを、とぼけたようにさりげなく」書く彼のエッセイは、大衆の心をつかみました。とにかく色々なことが気になる、気になるから考える、考えているうちに思考スケールが大きくなる。身近な話題(湯飲み茶わんの湯気や窓ガラスのひび割れなど)から、科学的な話に広がります。そのひょうひょうとした文章に人々は読み魅かれる。
 100年ほど前に、すでに生涯教育の大切さを説いたり、「子どもを教育するばかりが親の義務ではなく、子どもに教育されるのもまた親の義務」と、科学的なこと以外も語っています。

 「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉をきいたことがあるでしょう。
これは寺田寅彦が残した言葉です。人間がどれほど忘れっぽいか、自然がいかに頑固で執念深いものか、随筆『津波と人間』にも書かれています。
 そんな寺田寅彦のいろいろなエピソードを集めた 寺田寅彦は忘れた頃にやって来る/松本哉(集英社) 
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他にも、寺田寅彦随筆集/寺田寅彦(岩波書店)や、岩波少年文庫の科学と科学者のはなし~寺田寅彦エッセイ集/寺田寅彦(岩波書店)  などで彼のエッセイを読むことが出来ます。