卒業生に贈る~春風と秋霜
二つ目に贈りたい言葉は『春風を以って人に接し、秋霜を以って自ら慎む』です。
これは江戸時代末期の儒学者であり、朱子学や陽明学の大家である佐藤一斎の言葉ですが、〝春の風のように暖かい心で他人に接し、秋の霜のように厳しい気持ちで自らを律する〟という意味です。
しかし、最近の風潮を見ると、残念なことに、〝人に厳しく自分に甘いというケースがあまりにも目に付きます。権利は主張するが、義務は果たさない。何とか自分だけが楽をすることを考える。相手の迷惑を考えず、人を騙してでもお金儲けをしたい。相手の立場に立って考え行動しない。〟といったことです。
こういう姿勢では、たとえ一時的にはうまくいったとしても、多くの人の協力を得られないのは当然です。私もこれまで、社会で活躍している人を何人も見てきましたが、自分を厳しく律している人は他人には春風の態度で接しておられたように感じました。是非、この言葉を胸に刻み込んでいただきたいと思います。
佐藤一斎は「言志録」「言志後録」「言志晩録」「言志耋(てつ)録」の全四巻の中で、1133条に及ぶ修養処世の心得を述べています。この門下生として学び、あるいは語録によって影響を受けた人々の中には、佐久間象山、勝海舟、坂本龍馬、吉田松陰、木戸孝允、伊藤博文、山形有朋、西郷南州等明治の先駆者がいます。明治以降の人間としてあるべき道の教えは、この語録に負うところが多いと言えます。
機会があれば、これらを紐解いて見てください。