エゾシカによる生態系への影響
今回の修学旅行ではエゾシカの生態を調べるプログラムが準備されていますが、現在、北海道においてはエゾシカによる環境被害が大きな問題になってきています。
エゾシカはアイヌ語では「ユク」と呼ばれていましたが、これは獲物という意味です。そのためイオマンテなどの儀式に使用されるということはなく、単なる食料の対象として考えられていたようです。エゾシカは繁殖力が旺盛で、1歳で成熟し、2歳から毎年出産するため年率20%くらいの割合で増加します。このペースは4年で約2倍になるということです。
かつては年間10万頭が捕獲されていましたが、絶滅の危機に瀕することになり、1888年捕獲が禁止、その後捕獲の解除と禁止が繰り返されてきましたが、徐々に増加し1994年には道東の4支庁で12万頭が確認されるようになりました。その後2000年代に入ると牧草地の被害拡大、農業被害、交通事故や自動車事故を頻発させることになりました。そして、何よりも憂慮すべきは森林内の下草だけではなく天然林の稚樹にまで食害が発生してきたことです。この状態が続くと若木の成長が期待できなくなり、数10年後には深刻な事態に陥ることが予想されます。最近の調査では驚くべきことに、全道で40万頭のエゾシカが生息しているようです。
このように個体数が増加した原因は色々ありますが、主なものをあげると ①天然林を伐採して単一の針葉樹を植えたが、苗木の間に成長した下草が餌となり、エゾシカの成育に適した環境が出来上がった。 ②エゾシカの数をコントロールするはずの天敵であるエゾオオカミが100年前に絶滅した。 ③降雪の減少により越冬して生き残るエゾシカの数が増加した。 ④農耕地が増え、エゾシカの餌資源量が増加した。 ⑤過疎化の進行に伴い猟師の数が減少した。等です。
現在、エゾシカによる被害を防ぐためにさまざまな対策が検討されていますが、アメリカのイエローストーン国立公園ではシカの爆発的な増加を押さえるため、カナダからオオカミを移入して生態系の回復をはかっているようです。我々の周りには数々の環境問題がありますが、環境を守っていくためには、知恵を搾り出し地道な努力を継続していくことが必要であると感じています。