おはぎとぼた餅
昨今、いたるところでグローバル社会で活躍できる人材の必要性が叫ばれています。グローバル人材というと、すぐに世界的な視野を有するとか語学力に長けているという意見が出てきますが、私は日本の歴史や文化や伝統、思想といったことをしっかりと身につけておくことが何よりも大切であると思っています。
日本には世界に誇れるものが数多くありますが、残念なことにこれらの素晴らしさを知らない人が増えてきているようです。その一つが日本の食文化であり、今、世界から注目を集めています。日本の食は宗教との結びつきが非常に強いのが特徴です。食事の前に手を合わせて「いただきます」というのは、生き物の命をいただくということですし、お節料理に代表されるように季節毎に神への収穫を感謝して食事の工夫がなされています。
ところで、彼岸にはご飯の代わりに仏壇に「ぼたもち」や「おはぎ」をお供えされる家庭も多いと思います。この二つはもち米とあんこで作られており、本来同じ食べ物ですが、食べる時期が異なるため呼び方が異なっているのです。昔からおもちは五穀豊穣、小豆の赤い色は魔除けに通じることもあって、日本の行事に欠かせないものでした。つまり、甘いものが貴重だったため、ぼたもちといえばご馳走で、大切なお客様やお祝い、寄り合いの時などでふるまわれていました。これは労せずして思いがけない幸運がめぐってくることの例えとして「棚からぼたもち」という言葉になっていることからも、生活と深いかかわりを持っていたことが分かります。
しかし、ぼたもちとおはぎは、それぞれの季節を意識して同じ食べ物にもかかわらず、春はぼたもち・「牡丹餅」、秋はおはぎ・「御萩」という季節の花の名前がつけられています。そして、牡丹餅にはこしあん、お萩にはつぶあんが使われますが、これにも理由があります。材料となる小豆は秋に収穫されるため、獲れたての小豆が使える秋は、皮ごと使った粒あんに、冬を越した春は、固くなった皮を取ってこしあんにして使っていました。このように古来より、日本では食に対するきめ細かい心配りをしてきているのです。