立春に卵が立つ
立春です。八十八夜や二百十日など、雑節の起算日となっています。きょうは、七十二候の第一候、春の兆しとなる暖かい風が東方から吹きはじめ、冬の間に湖や池に厚く張りつめた氷を少しずつ融かしていくとする「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」です。
立春にまつわる有名な話に「立春の卵」があります。1947年(昭和22年)に、立春の上海や米国で卵を立てる実験に成功した、というニュースが報道されました。この報道に疑問を感じ、卵を徹底的に調べたのが当時北大教授の中谷宇吉郎博士でした。その経緯をまとめたものが、随筆「立春の卵」です。
卵の殻の表面は小さいでこぼこがあり、ざらざらしています。このなかの三つの凸点によってできる面積の中に卵の重心からおろした垂直線が落ちれば、ゴトクの三本足の役目をすることになり卵は立つことになります。そのことを顕微鏡で卵殻を観察したり、力学計算をおこなったりして、立春でなくとも、誰でも卵を立たせることが可能であることを明らかにしたのです。
わかってみれば何でもない話ですが、どうして気が付かなかったのかというところが問題だ、と博士は指摘しています。先入観にとらわれていないか、常識だと思っていることも「本当にそうだろうか」と問い直してみることの重要性を教えています。「問題は、そういうなんでもないことに、世界じゅうの人間がコロンブス以前の時代からこんにちまで、どうして気がつかなかったかという点にある。それは、五分間くらいついやしてたまごを立ててみようとした人が、いままでだれもいなかったからである」。(「たまごの立つ話」中谷宇吉郎)