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「I was born」

 「I was born. 吉野弘。 確か 英語を習い始めて間もない頃だ。・・・」、「シン」と静まり返った教室に先生の朗読の声が凛と響きます。高校三年生の現代文の研究授業です。授業者は今年本校に来られた守本先生です。教材は、吉野弘氏の詩、「I was born」、テーマは「アイデンティティー」です。身重の女性と遭遇し、「人間は生まれさせられるんだ」、習いたての英語の受身形なんだと納得する少年が、父親との話の中から、生後間もなく亡くなった自分の母への思いや、母と自分との関係、つながりを実感していくという心情の変化を表した詩です。
 この詩のテーマを理解させるために、新婚五ヶ月で出征した父が戦地から出した「レイテ島からのはがき」も用意されていました。何度も何度も母親が読み返したのか、判読不明になった手紙の中にかすかに読める、いや読みたい、そうであってほしいと願う「身重」の文字にこだわる、父親の姿を知らない依頼者の姿を描いたビデオをはさみながらの授業展開でした。
 親の子に対する思いや願い、場合によっては命と引き替えに我が子を産む母親の存在、それらを受け継いで今の自分があるのだと実感させられる、何とも「ズシリ」と胸にのしかかり、こみ上げてくるものを感じる内容でした。涙ながらに授業に参加する生徒の姿も見られました。自分らしさ、自分の存在価値や意味を他者との係わりのなかで捉え考えさせる、生徒はもちろん、参観者も巻き込んだ、まさに魂を揺さぶる授業でした。