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「国際教養」って,何?

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 来年4月,同志社女子大学学芸学部に「国際教養学科」が新設されます。また,追手門学院大学や獨協大学にも「国際教養学部」が予定されています。こう続くと,何かブームの予感がするのですが,どうも,一昨年,2004年に早稲田大学が「国際教養学部」を開設し,昨年2006年には上智大学が比較文化学部を国際教養学部に改組したことが発端のようです。さらに遡れば,秋田市にある国際教養大学が2003年に設置認可されたあたりから火がつきだしたような気がします。「何で今頃?」「国際?教養?関係ないね」って思いますよね。一体,「国際教養」って,何する所なんでしょう?
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「国際」ってつけば「英語」,だから,「英語が話せるようになって,世界のことを勉強するんだろう」と推測してしまうでしょうが,実は全然違います。そもそも 「リベラル・アーツLiberal Arts」を「国際教養」というふうに無理に訳してしまうからいけないんで,日本語では本来の意図が失われてしまっています。
 とにかく,「リベラル・アーツ」を「国際教養」と言い換えたとして話を進めましょう。じゃぁ,「リベラル・アーツ」ってなんなんでしょう?
 一般に,「リベラル・アーツ」は「一般教養」と訳されていますが,一般教養と聞けば,大学の専門課程に入る前の1,2回生時に習う一般教養科目を指すと思う人が多いようです。しかし,本来の意味はそうではなく,「国境を越え,地球市民として,国際社会に活躍できる知識と学問を身につけ,主体的に行動できる力を養うための教育」と理解すべきものです。ただ英語がしゃべれて,世界のことを勉強して知識を蓄えておればそれでよいわけではなく,実際に行動することを要求しています。
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 本来,リベラル・アーツは,欧米で発達し行われている大学教育で,その起源は古代ギリシャ・ローマ時代にまで遡り,都市国家の命運を担う人物としての自由市民がもつべき素養について哲学者プラトンやアリストテレスが述べています。要するに,リーダーとしての素養を問うているのでしょう。それが,中世ヨーロッパでは自由7科(文法学,修辞学,論理学あるいは弁証法,算術,音楽,幾何,天文)として,これらを身につけた後に専門の学部に進むことが許されたと言われています。いいですか,算術,音楽,幾何,天文・・・・・・今風に直せば,「数学・理科・芸術」ですよ。
 要するに,リベラル・アーツは,なりたい職業のために資格を身につけさせるとか,そう言う実利の教育ではなく,あくまでも,それが面白いからとか,もっと勉強してみたいとか,そういった根本的な動機を非常に大切にしています。考えてみれば,高度な大学専門課程に入る前にはそういう志は絶対に必要でしょうね。いまでも,ヨーロッパでは大学前の課程で行われており,アメリカでは学部(学士課程)で行われてきました。
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 ハーバード大学やコロンビア大学,イェール大学など,有名な多くの総合大学の学部教育はリベラル・アーツ教育が中心として行われています。実は,これらの大学は,元々はリベラル・アーツ・カレッジだったところで,将来アメリカを支えていく人材を育てるための教育が行われ,幅広い知識や教養を身につけ,バランス感覚に優れたリーダーを養成する使命を持っていた学校だったわけです。それが長い歴史の中で大きくなって総合大学へと変わっていきました。
 今でも,リベラル・アーツ・カレッジとよばれる小規模な大学がアメリカに点在します。そのほとんどが全寮制で,都会の享楽的な刺激のない大自然に囲まれたところにキャンパスがあります。学生数も500人~3000人くらいで,90%が私立大学です。少人数制のクラスで,教授自らが教え,大学全体がアットホームな雰囲気になっています。最近では,著名人を輩出していることから注目を浴びています。例えば,以下の人達はすべてリベラル・アーツ・カレッジ出身者で,その後,様々な大学の大学院へ進んでいます。
 Walter P.Mondale,Macalester College(モンデール前副大統領)
 Coretta Scott King,Antioch College(キング牧師夫人)
 Rutherford B.Hayes,Kenyon College(ヘイズ元国務長官)
 Kofi Annan,Macalester College(アナン国連事務総長)
 Harrison Ford,Ripon College(俳優。ハリソン・フォード)
 Hillary R.Clinton,Wellesley College(ヒラリー・クリントン上院議員)
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 さて,日本で最初にリベラル・アーツ教育を始めたのは,国際基督教大学(ICU)のようです。1949年,「民主的思想に基づく人生哲学と実践力を持ち,様々な問題を正しく批判し,解決できる知性の持ち主」を育むことを目的として,日本で最初の教養学部として開学しました。当初から英語による講義,課題,試験を行い,英語による討議が普通に行われ,ICUはアメリカンスクールだと言われていました。実際,国連など国際機関で働く日本人職員の中で,ICU卒業生が一番多いのだそうですね。
 だからなのかどうかはわかりませんが,最近開設した,或いは開設しようとする,いわゆる「国際教養」学部・学科は,このスタイルが多いように思えます。早稲田・国際教養にしても,上智・国際教養にしても,英語が普段の授業の中に普通に取り入れられているし(留学生が30~50%もいる),来春開設予定の同志社女子大・国際教養学科も英語で授業をすると言ってます。また,早稲田・国際教養学部や同志社女子大・国際教養学科は,1年間海外留学することになっています。
 でも,ここまでだったら,外国語学部とそう変わりませんが,違うのは履修科目の広さと批判的思考能力を身につけること。数理統計や情報処理もやるし,ディスカッションが多いから黙ってうなずいてたらダメなんですよ。幅広く知識を吸収し,自分の意見を組み立て,人に伝えることができなきゃだめなんです。それも英語で。そうでなきゃ,本当に海外で働けないじゃないですか。だから「国際」「教養」なんですよ。そして,もっと深く知りたくなったら,もっと専門的にやりたくなったら,それは大学院で学ぶ。リベラル・アーツはあくまで学部教養で終わり,専門は大学院に任されているんです。
 ただし,「国際教養」と言いながら,実態は,語学の習得に偏っているところもあります。それは真の「国際教養」ではありません。それだったら,外語系に行った方が絶対にいいでしょう。あくまでも「国際教養」は,英語は道具でしかなく,ポイントは次の知識の習得にあるのですから。
国際教養学部・学科,教養学部をもつ主な大学
早稲田大学・国際教養学部
上智大学・国際教養学部
国際教養大学・国際教養学部
宮崎国際大学・国際教養学部
東京大学・教養学部
国際基督教大学・教養学部
横浜市立大学・国際総合科学部
仙台白百合女子大学・人間学部・国際教養学科
同志社女子大学・学芸学部・国際教養学科
東京女学館大学・国際教養学部