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君に送るエール

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あきやま じん 昭和21年10月12日生 東京都出身。東京理科大学理学部応用数学科卒、上智大学大学院数学専攻修士課程終了。米国ミシガン大学数学科客員研究員、ベル研究所非常勤科学コンサルタント、東京理科大学数学科教授等を経て、 現在、東海大学教育開発研究所教授。日本テレビ「世界一受けたい授業」等にも出演している。

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 私は才能に恵まれず、頭も悪い、記憶力も悪い、努力もできない、知能検査も悪くて普通学級にはついていけないのでは、とまで言われた子どもでした。母は大変に教育熱心だったのでとても心配して、5歳の時にカウンセリングの先生に相談に行ったこともありました。その時の評価もあまり芳しくなく、「この子はあまり親の鋳型にはめてはいけない。お母さんの期待通りに子どもが育っていくとは限らないから、もっと自由にさせてあげた方がいい」とアドバイスされたそうです。しかしそれからしばらく経って小学校6年のとき、母の勧めで私立中学を受験することになりました。夜12時まで頑張って勉強しましたが、結局すべての受験校に落ちてしまい、それからは授業中もちゃんと先生の話を聞かない、遊び呆ける、というような子どもになつていきました。成績も急下降してほとんどビリ。この当時、私が1番だったのは出席番号と2.0の視力だけでした(笑)。

  また高校受験ではその地域で名門と言われた高校1本だけを受けて見事に落ちてしまいました。その時はたまたま新設間もない私立高校があって、なんとか高校生にはなることができました。
 中学生までは自堕落で、意志薄弱で、自己中心的で自分のことしか考えない、そしてうまくいかないとみんな人のせいにする、逆にうまくいった時は全部自分の手柄にする、今思うと最悪の子どもでした。
 高校生になつて一時反省したのですが、今度は担任の先生との相性が悪かったのです(笑)。「すでに義務教育ではないのだから」と厳しく指導する、ラッキョウというあだ名のこの先生は、今にしてみると熱心でいい先生なのですが、あの頃は嫌いでした。劣等生にとって熱心な先生というのは、自然界で言う天敵みたいな存在でしたから。

 でも、その中で福地先生という、できない生徒に対しても分け隔てなく指導をしてくれる先生に出会いました。福地先生は数学の先生で、「数学という科目を通して、考える力を育むことが重要なんだ。考えるということが習慣として身につけば、必ず成功するんだ」といつも言っていました。しかし生来、ものぐさな私は、考える力をつけるなら将棋でもよかろうと勝手に考えました。そこで、授業中に友達と将棋をやっていて、先生を烈火のごとく怒らせたこともありました。「勉強ができないのはしょうがない。だけど一番いけないのは授業に積極的に参加しようとしない、その意欲の無さだ」と叱られました。またある時、補習を頑張ったご褒美にと言って先生がご馳走してくれたラーメンライスの味は45年経った今でも覚えています。人数が多かったので5人で1つのラーメンをおかずにご飯を食べたのですが、先生ありがとう、という気持ちとともに今でも忘れることはできません。

 高校時代はそんな成績でしたが、福地先生に憧れて数学者になりたい、と思いました。大学の数学科に行きたいと福地先生に告げると、しばらく黙っていた先生はこう言いました。「本当にやりたいと思っているのなら、2~3年で俺には向いていないとか難しすぎるとかいう泣き言は言うなよ。人生を賭けてやれ」。人生を賭けて、ということは絶対やめない、ということです。そしてその言葉を胸にいろいろな大学の数学科を受けましたが、行きたい大学は落ちてしまいました。(つづく)

「駿台『ADVANCE FUTURE』秋山仁先生激励メッセージ」から