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君に送るエール

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あきやま じん 昭和21年10月12日生 東京都出身。東京理科大学理学部応用数学科卒、上智大学大学院数学専攻修士課程終了。米国ミシガン大学数学科客員研究員、ベル研究所非常勤科学コンサルタント、東京理科大学数学科教授等を経て、 現在、東海大学教育開発研究所教授。日本テレビ「世界一受けたい授業」等にも出演している。

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 受験に関する努力と結果という、2つずつの組み合わせを考えた時、4つの場合があります。その中で一番いいのは何かというと「一生懸命やって落ちた」でこれが私の心ではベスト1です。2番目は「一生懸命やって受かった」。最悪なのは「勉強しないのに受かった」というものです。今後の人生の中で、努力をすることができる人間になれるかどうかということがとても大事なことなのです。正念場、後がない、そういう状態になった時、人間というのは本性が表れます。それでも自分の意志でひたすら頑張ることができる人間かどうか。それが重要なのです。

 私は滑り止めの大学に行って、いろいろな労働をしながら自立しなくてはと思いました。畑の中の3畳一間の古いアパートを借り、ポケットには500円しかなかったけれど、これからは自分で全部やっていこうと思いました。それくらい、心意気だけはありました。
 私が後年最初に海外の大学で教えたのはアメリカのミシガン大学というところでしたが、ここの学生はみな、驚くほど熱心でした。その理由は明白で、彼らは学費を全て自分で稼いでいたんです。欠席する学生がいないから、出席などとる授業はありません。先生が少しでも始業ベルに遅れて教室に入ると学生の方が怒る、そんな学校でした。自分の人生だから自分でやるというのが基本になっているんですね。世の中につらいこと、大変なことはたくさんあります。でもあえて、大変なことは自分のところに集中して来い、というくらいの気構えを持ち、それをいつも笑額でこなせる、そういう人間になりましょう。世界の人々から信頼される人というのは、そういう人なのです。自分だけ良ければという発想はダメで、世界のみんなと一緒にやっていくという世界では当たり前の真実に立ち戻って考えることが大切なのです。

 働きながら大学に通ったので生活はかなり大変でした。君たちのほとんどは、保護者の協力を受けて進学を考えていると思います。でもそれを当たり前だなんて思っていたらきっと学業は成就しないし、人生も失敗する。日本の大学に行く学費があれば、中国では10人の学生が進学できるんです。進学できる感謝と重みをよく肝に銘じて欲しいと思います。

 女優の檀ふみさんのお父さんは、檀一雄という有名な作家です。そのお父さんが彼女のために書いた色紙には「お前の人生が多難であることを祈る」と書かれています。その言葉をそっくり、私は皆さんに贈りたいと思います。諸君の人生が多難であることを祈ります。苦しい思いをしながら、人の心の痛みがわかるようになる、優しくなる、たくましくなる。倒れても倒れても起き上がって前進の一歩を踏み出せるような、責任感があって勇気のある、そういう自分を今日から作って行きましょう。

 大学では随分頑張って勉強したけれど、残念ながらなかなか道は拓けていきませんでした。挫折の連続で、もうやめようかと何度も思ったけれど、その度に福地先生の言葉を思い出しました。一生、投げ出さない、ということを心に誓ってきたわけだから、悔しくてやめられない。皆さんも、悔しいという気持ちは決して忘れないでください。半年経ったら入試が終わった時の屈辱を忘れている、というようではダメです。悔しさはずっと心に溜めて、そして悔しさをバネに、次のステップに跳ね上がる。屈辱をバネに生きるのです。そのバネを持つためには志を高く抱き、失敗、絶望、そういうものをたくさん経験した方がいいのです。一生懸命やって努力のコツは覚えた。だけど運悪く落ちた。それでもいいんです。努力する人間になれたのだったらおめでとう、と言えます。だけビ努力しないで適当に受かってしまったり、落ちたり、それでは何も残りません。(つづく)

「駿台『ADVANCE FUTURE』秋山仁先生激励メッセージ」から