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君に送るエール(最終回)

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あきやま じん 昭和21年10月12日生 東京都出身。東京理科大学理学部応用数学科卒、上智大学大学院数学専攻修士課程終了。米国ミシガン大学数学科客員研究員、ベル研究所非常勤科学コンサルタント、東京理科大学数学科教授等を経て、 現在、東海大学教育開発研究所教授。日本テレビ「世界一受けたい授業」等にも出演している。

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 大学4年生の時には、あんまり自分ができないからこのままやめるのは悔しい、だったら大学院に行こうと思いました。そして主任教授のところに相談に行くと「君はずいぶんできないね。こんな成績で大学院に行きたいの? 大学院はね、病院じゃないんだよ」(笑)と言われてその大学の大学院に行くことはできませんでした。とても悔しかった。でも諦めず、新天地を求めました。外国は金が無いので無理。そこで、関西の名門国立大学を受けに行きました。一生懸命勉強していったけれども、筆記では歯が立ちませんでした。翌日の口頭試問の教室に行ったら、先生方が「キミが秋山くんか」と盛り上がっている。どうしたのかと思ったら「キミがビリだった」と言われました(笑)。恥ずかしくて逃げるように部屋を出ると、後ろから若い先生が追いかけてきて「秋山くん、ダメだよキミ、自殺なんかしちゃ」(笑)と言うではありませんか。私には全くその気はありませんでしたが、その先生がいいことを2つ言ってくれたのです。1つは「数学ではみんなビリだったけれど、英語とドイツ語は君が1番だった」ということ。私は働きながらさまざまな語学学校で学んでいたので、語学には多少の自信がありました。それが1番だったというのはとても嬉しいことでした。そしてもう1つは「君が入りたいと書いた研究室の先生は、来年の3月で定年退職して東京の大学に移る。そこを受けてみたらどうか」という情報でした。それを聞いて私はまた猛勉強をして、その先生が来るという上智大学の大学院を受けに行きました。すると10人の定員に、受験生は私1人。1人では落とすこともできなかったのでしょう、私は無事に合格することができました。でも憧れの先生にはすぐに実力がないのが露呈してしまい、「君、本当はアホちゃうんか」と関西弁で言われると心にズキンときたものです。「君を教えると眠くなる」とゼミもやってくれなくなり、たまにトイレで会うと「まだ在籍してたのか」などと言われて悔しい思いをしました。でも、悔しさをいっぱい味わって、もうダメだと思ってもつぶれちゃいけない。悔しい時は泣きなさい。そのうち時がすべてを解決してくれます。「日にち薬」というのだけれど、日にちが経つとだんだん力が出てくるから、大丈夫です。

 大学院2年の時に修士論文を持って久しぶりに先生の部屋に行きました。すると先生は「君、まだいたのか」と言いながら、その英語論文を3分くらいご覧になって、「数学の論文は、少なくとも1つは新しい結果が入っていなくてはいけない」。それで終わり。これが留年決定の瞬間でした。でも、こういうことは世の中にいくらでもあります。その時に諦めてはダメなんです。そこで私は「よし、誰もやってない数学をやろう」と思い直しました。1週間後には友人の通っていたアメリカのカリフォルニア大学に渡っていました。大学院を留年して、組み合わせ数学を一生懸命勉強して帰ってきました。そしてダメもとで修士論文を書いて持っていったら今度は何も見ないで「合格」をもらいました。あんまり急に変わったので助手の先生に聞いたら、先生が「あいつは俺を恨んでいるかもしれない。帰ってきたら危険だからすぐ卒業させよう」と言っていたとか(笑)。嘘か本当かはわかりませんが、そうして大学院は修了しました。

 でもその後、今度は就職口が見つからない日々が続きます。どこへ行っても「こんな業績じゃダメだ」と断られました。でも、数学はやめませんでした。生涯やる、と心に誓ったのですから。昔はずいぶん利口な人にも憧れましたが、今ではバカで良かった、と思っているんです。バカにしか見えてこない数学がある。すなわちその人にしかできないことが、どの人にも必ずあるんです。「あなたとなら、私は長くつらい旅に一緒に出掛けてもいい。あなたと一緒ならこの大変な仕事を歯を食いしばつて頑張ってもいい」そういう風に人々から思われる人間になりましょう。そして自分でやりがいがあると思う仕事を探しましょう。数学に対しては、私なりの思いがあります。私の定理は、なかなか気付かないが、言われてみると”スゴイ“と歓声が上がる命題を証明したものが多いので、小学生だって楽しめるのです。そんな定理をたくさん作りました。

 最後に一言,アドバイスしましょう。皆さんにも「日々進歩ノート」をつけることを勧めたいと思います。最低5つ、昨日できなかったことで今日できるようになったことをノートに書き込んでいくのです。そして、明日はまた今日できなかったことを5つ以上できるようにしていく。こうして毎日進歩していく自分を感じながら、日々の努力が当たり前にできる自分を作って行きましょう。そうすればいつか必ず志を貫くことができると思います。(完)

「駿台『ADVANCE FUTURE』秋山仁先生激励メッセージ」から