三つの風景
今週から私が担当しているのですが、この四月からの勤務であるにもかかわらず、挨拶もせずにこのブログを始めてしまいました。それで今日は私と学校のある宝塚市とのこれまでの関わりを書かせていただき、自己紹介及びご挨拶に代えたいと思います。
ずっと神戸に住んでいた私にとって宝塚は遠い町だったのですが、それでも宝塚という地名を聞いた時、わたしにはいつも三つの風景が浮かびます。
まず大学一年の時、頼まれて夏の間、小学生の家庭教師をしたことがあります。宝塚南口で降りて、宝塚ホテルの裏側の坂をのぼったところにある家でした。庭でプチトマトを栽培しておられ、ある日勉強の後で、きれいに洗われつやつや光ったプチトマトが出されました。私は喜んで一ついただこうとしたのですが、そんなトマトを食べ慣れない私は半分に噛んでしまい、汁をとばしてしまいました。真っ白なテーブルクロスに真っ赤な二つの島。その時私はトマトよりも赤くなっていたはず。
次に浮かぶのは、同じく大学生の時。友人に誘われて宝塚大劇場のミュージカル「回転木馬」を観ました。舞台が始まると、私はヒロインの初々しさとそのダンスの美しさに魅入られてしまいました。観終わったあとも、そのヒロインは僕の頭の中で踊り続けているのでした。その後二十年たって、ある時、元宝塚歌劇団にいたダンスの先生との電話の途中、たまたま昔の「回転木馬」の話になり、その憧れのヒロインの話をすると、
「今、ここにおるで」
私は耳を疑いました。そして彼女は電話に出てくれました。私は受話器を握りしめて声を聞き、勇気を奮い起こして二人を食事に誘ったのですが、
「夢をこわすのが怖いので」
と断られてしまいました。会えなくて正解だったのでしょうか。今でも僕はそのヒロインの姿を夢にみることがあります。
三つ目は十五年前。丘の上に立つ市民病院に叔母の見舞いに行った日です。逆瀬川から父とタクシーで行ったのですが、叔母は少しふくれた腹部をさすりながら冗談を言って我々を笑わせるのでした。帰りのタクシーの中、父と僕は病室の中とはうってかわって無口になっていました。窓から見える街並みはどこかモノトーンで、街路樹も色彩を失っていました。 (田畑保行)