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ヨーロッパ教育事情瞥見

 昨日の項の最後の部分に「日本はアメリカに比べると、教育制度的には、いわゆる「発展途上国」なのではなかろうかと思ったりもしてしまいます。」などと書きましたが、昨日の夕刻の民放のニュースで韓国のある大統領候補が現在の中学2年生が高校3年になる2011年に大学入試を全面廃止すると公約したそうで、早速、インターネットで調べてみました。それによると、彼は5日の記者懇談会で「『大学入学試験を廃止して修学能力試験を高校卒業資格試験に転換、先進国型内申を主として選抜する』とし『本考査を受ける国は日本とメキシコくらいで、内申主の選抜がグローバルスタンダードだ』と明らかにした」そうです。「日本とメキシコくらい」はすこしひどいようですが、ブログで書いた内容と同じようなことを考えている人が、同じ日にニュースに登場したのには少し驚きました。

 ところで、今回のシリーズの初回で触れたように、二十年以上も昔のことですが、兵庫県私学総連合会の主催したヨーロッパ教育事情視察団に雲雀丘学園の職員として参加してヨーロッパの6カ国を2週間ばかり廻りました。イタリアのローマを起点として、スイス、ドイツと北上し、オランダまで達すると飛行機でロンドンに飛び、ロンドンの次はパリを訪問、最後にパリから帰国しました。宿泊した都市はローマ、フィレンツェ、ベニス、インターラーケン、ハイデルベルグ、デュッセルドルフ、アムステルダム、ロンドン、パリで、各地の学校施設を視察というよりは見学してまわりました。その傍ら息抜きに、際立った名所旧跡、博物館(大英博物館など)、美術館(ウフィッツ美術館、ルーブル美術館など)も見聞できたのは幸運でした。
 当地で強く感じたのは教育を取り巻く環境が日本と非常に異なっていることでした。何しろ1983年のことで、二十年以上昔のことになります。当時を振り返りながら現在の事情も織り交ぜて「瞥見」することにします。
 大阪や神戸のような都市はトイレ休憩で下車したフランクフルトぐらいなもので、訪問した都市は古都が多く、至る所に教会の尖塔が空高く聳え立って、宗教的伝統が根強く残っているのが印象的でした。「『神は死んだ』なんて言ったのは誰の台詞だったっけ。」などと思ったくらい宗教も過去も根強く残っているようで、特にローマなどは、悪く言えば、骨董屋の中にまぎれこんだような気がしたものでした。
 そのローマではサンタ・マリア学院という私学の名門校を訪問しました。詳述すればきりがありません。時々友人の海外旅行のアルバムを説明つきで見せられて閉口することがありますが、同じ愚を冒すことになるので、特に印象に残ったことだけを書きます。
 それは非行に対する考え方です。学院によると、非行の根本原因は家庭にあり、学院にそぐわぬ行動をとるものは、自ら選んだ学院の教育を自ら否定し、学院に存在する意味を自ら放棄するするものである・・・・・・従って、家庭と本人と十分話し合いの上、退学してもらうことになるということでした。驚いたのは、飲酒や喫煙は決して非行とはみなさず、喫煙を希望するものには時間・場所を指定していることでした。学院側は許可をしているのではなく、あくまで管理上の処置に過ぎず、許可する、しないは学院の問題ではなく、家庭の問題であり、その生徒、学生個人の問題であるとのことで、ただし、管理上の規定を破ったものは罰金1万リラ(当時)を徴収するとのことでした。この学院は教会をもっており、教育のバックボーンは宗教(カトリック教)で入学条件には親がどの程度宗教心をもっているかを観て、態度のあいまいな場合は入学を断るということでした。この飲酒・喫煙に関する規定もサン・ピエトロ大聖堂のあるローマで、天を目指して屹立する教会の尖塔をあちこちに眺めていると何となく納得させられる気がしたものです。あれから24年、日本流に言えば二周り廻ったことになりますが、その後あの規定はどうなったか知りたいものです。EU統合を経た今日ですが、そう変わっているとは思えません。
 ローマは右を向いても、左を向いても、歴史の教科書のような街で、アッピア街道、フォロ・ロマーノをはじめとして、3日間、遺跡、名所、美術作品などを見聞して廻りました。フィレンツェ、ベニスでは教科書とか画集などでしかお目にかかれなかったミケランジェロ、ダヴィンチ、ボッティチェリなどの天才たちのオリジナルの絵画、彫刻に目を瞠りました。

文責: 山本正彦