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ひつじ年にちなんで ②

 もう一つ、「羊」のついた作品の。 こちらは『電気羊』 SF小説です。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック (早川書房)
 舞台は、最終世界大戦後のアメリカ。放射能灰に汚された地球では多くの動物たちが絶滅、人々の多くも他の惑星に脱出。過酷で危険な仕事はアンドロイドが行っている世界。
 そんな中、地球に残り人工的な物に囲まれて生きる人々にとって、希少価値のある本物の動物を飼うことこそステータスシンボル。全財産をはたいてでも手に入れることが夢であり、生きがいなのです。経済力がなく電気羊(機械動物)しか飼えない主人公のリックも、その一人。
 ある時、火星からアンドロイドが脱走する事件が起きます。逃亡中の8人のアンドロイドにかかった莫大な懸賞金を手にするため、賞金かせぎのリックは決死の覚悟で彼らを追います。
 しかし、彼ら(特に1人の女性アンドロイド)と関わるうちに「人間とアンドロイドとの違い」という根本的な部分で迷いが生じます。外見だけでは判断できない両者の違いは、感情移入の有無だけなのか?(両者の鑑別には感情移入検査というテストが行われる) 機械やバーチャルに感情をコントロールさせて生きる自分達は本当に人間といえるのか?

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 1968年に発表されたこの作品を原作に、映画『ブレード・ランナー』(監督・リドリー・スコット、1982年)が作られ、一躍脚光をあびました。映画もおもしろいですよ。

 訳者のあとがきには、作者のディックは感情移入を人間の最も大切な才能と考えた、とあります。「どんな姿であろうと、どこの星で生まれようと、問題じゃない。問題はあなたが、どれほど親切であるか、だ。」とコメントしているそうです。
 彼にとってアンドロイドと人間の自然科学上、生物学上の違いには無意味。『親切であればすべて本物』だと言います。そこだけ取り上げるとちょっと極端な言い方ですが、『人間らしさというのは他者に共感して行動ができること』 というような意味でしょうか。そんなディックが「人間とは何か?」をテーマに取り組んだ、長編SF作品です。