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2月の図書だよりから ②

 マレー語の『デュユン』(きれいな娘)が名前の語源とされ、絶滅危惧種でもある海洋生物・ジュゴン。ゆったりと泳ぐその姿や授乳する様子が人間の授乳を連想させることから人魚のモデルだと言われています。

  ジュゴンの上手なつかまえ方/市川光太郎(岩波書店) 

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 人魚はその歌声で船乗りを惑わせ、船を座礁させたという伝説があります。京都大学フィールド科学教育研究センター研究員の市川さんもその歌声に惑わされた一人。大学在籍中にひょんなことからジュゴンの研究を始めた市川さんのジュゴンの第一印象は「あらー、こんなにぶちゃいくなんや」 確かに、その容姿は童話で読んだ人魚とはちょっとかけ離れています。

 陸上で生活する私達が最もよく使う感覚は、目で見る事・視覚ですが、海の中になるとそれが音になります。水中生物は周囲の状況を得る手段として、音を出したり聴いたりする能力を発達させてきました。その結果、想像しにくいですが海の中は音であふれかなり騒々しいのだそうです。

 * ちなみに一番多いのはテッポウエビが爪をたたき合わせて出すパチンという音。
    ジュゴンの歌声を採取しようとすると、大量の天ぷらを揚げているようにパチ
    パチパチ。「なんやねん。もううるさいわ」となるそうです。

 それまで、世界にジュゴンの鳴き声を研究しているグループはなく、市川さんは世界でたった一人のジュゴン鳴き声研究者になりました。ジュゴンが生息が確認されているのは、紅海、アラビア湾、ニューカレドニアを始めとする38か国。市川さんはジュゴンの歌声を求め、世界に飛び出します。
 調査のためにジュゴンの背中に飛び乗ったり、右も左もジュゴンだらけのオーストラリアの海で「ここは天国か!」と思ったり、ホースでウンチを集めたり。

 「とにかく知りたい」という気持ちで、世界各地のジュゴン生息地で仲間たちとバイオロギングに取り組む市川さんは、本書を読む限りはかなり楽しそうです(もちろん大変な事も多いでしょうが)

 「で、鳴き声調べて何の役に立つの?」と思った人、生物のバイオロギング(行動追跡研究)に興味がある人は、一読を。
 あ。肝心なジュゴンの歌声は、「ピヨピヨピーヨ」だそうですよ。