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536 幸福な食堂車/一志治夫 (プレジデント社)
熊本、大分、鹿児島中央各駅舎、JR九州の新幹線「つばめ」、「ななつ星 in 九州」、「SL人吉」などの車両デザインを手がけたのが、インダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治さんです。
国鉄からJRになり分社化された時、普通に電車を走らせ通勤通学の人々を輸送するだけで安定した経営が出来る東日本、西日本、東海と比べて、経営が厳しくなるのはわかっていたJR九州。これまで以上に多くの人に車やバスではなく、積極的に鉄道を利用してもらう努力が必要でした。
そこで取り入れられたのが、水戸岡さんの鉄道のデザインの改革です。
「特急料金は時間だけでなく空間にも支払うもの」と考える水戸岡さんの仕事に欠かせないのが5つのS(エス) 『整理、整頓、清掃、清潔、しつけ』 世の中は、建物と景色、ヒト、コト、モノ、すべてが大混乱している。その混乱を正して、掃除をして、美しくわかりやすくすることこそ本当のデザイン力だという考えです。
そうして改革が始まって30年余り。デザイン改革は利用する人たちだけでなく、働く環境の変化をもたらしたことで、職員のサービス改善にもつながったようです。そして、現在、九州は鉄道王国と言われるまでになりました。
タイトルの食堂車は、水戸岡さんが強く思い入れのあったもの。食堂車は「1年間に1億円の赤字」が出ると言われてるそうです。でもお金がかかって「儲からないもの」も世の中にはあるべきだと考える水戸岡さんの仕事の流儀がつまった1冊です。