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こんな本を読んでみませんか 3

 冒険小説や古めかしい時代小説は気の進まない人には、サン=テグジュペリAntoine de Saint-Exupéryの「星の王子さま」はどうでしょうか。私はずいぶん昔に岩波書店から出ていた内藤濯の訳本で最初に読みました。

 ストーリーの展開はそう難しくないだろうと思います。飛行機の操縦士である主人公の「ぼく」が、不時着したサハラ砂漠の真ん中で男の子に出会います。彼は小さな自分の星を後にして、いくつもの星を巡ってから7番目の星・地球にたどり着いた王子さまでした。初対面の「ぼく」に王子さまは「ヒツジの絵を描いてくれ」と頼みます。「ぼく」がゾウを飲み込んだウワバミの絵を描くと、大人たちが帽子だと思うその絵を王子さまは「ウワバミに飲み込まれたゾウ」の絵であると気づいてくれたのです。そして、もう一度ヒツジの絵を描くように求めます。「ぼく」が箱を描いて渡すと、王子さまは「箱の中にいるちっぽけなヒツジ」が眠ってしまったところまで見えました。こういう状況を「心が通じ合った」というのでしょうね。

 この作品の素晴らしいところは、大人向けとも言えるすてきなメッセージに満ちていることではないでしょうか。「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。)」「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。たいせつなことはね、目に見えないんだよ…」 すでに大人になっている私たちにも、これから大人になる君たちにも、ドキッとする言葉じゃありませんか?

 新潮文庫は河野万里子の訳で出ています。私は大人になってから原文で読み直しました。詩的な美しいフランス語の文章に触れてから、宝物のような作品の一つとなっています。A.M.
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