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こんな本を読んでみませんか10

 8月6日です。何の日かは新聞やテレビなどのマスコミでも取り上げられているから知っていますね。広島に原子爆弾が投下された日です。もう60年以上も前のことをなぜそんなに問題にするのか、自分とどう関係するのか、少し考えてほしいと思います。「1945年8月6日広島に原爆が投下された」とか「これが最初の核兵器による都市攻撃で、一般市民十数万人が死んだ」という知識は持っているかもしれません。でもそれがどのように自分と関係するのかを考える機会を持たないと、生きていくための知恵は身につかないと思います。

 新潮文庫の「きみに読んでほしい50冊」にはヒロシマをテーマとした小説があります。それは井伏鱒二の「黒い雨」です。「山椒魚」や「ジョン萬次郎漂流記」を著し、ロフティングHugh John Loftingの「ドリトル先生」シリーズを訳した人と同じとは思えないような作品です。黒い雨とは、原子爆弾炸裂時の泥やほこり、すすなどを含んだ重油のような粘り気のある大粒の雨で、放射性降下物(フォールアウト)の一種です。強い放射能を帯びているため、この雨に直接打たれた者は二次的な被爆が原因で、急性放射線障害を受けます。

 「黒い雨」ではピカドン(原子爆弾)による肉体と精神の苦悶と悲しみが描かれています。閑間重松の被爆日記、閑間夫人の戦時中の食糧雑記、岩竹医師の被爆日記、岩竹夫人の看護日記他をもとに、悲劇の実相を日常生活の場で淡々と描いた作品です。戦争に対してどうかという評価は一切書かれていません。1945年8月6日に広島で何があったか、その後の広島で何があったかを描いているだけなのです。単に「可哀想」とか「残酷」という感情だけではすまされないものを感じとって欲しいです。 A.M.
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