進路の部屋
【フロンティアウィーク】~中学3年生・職業人インタビュープロジェクト~
2026/07/07
「正解」を出す力より、「問う」力を。
「大人になったら、どんな仕事に就きたいですか?」
そう聞かれても、なかなか具体的にイメージできないのが中学生というものです。教科書やインターネットで職業について「知る」ことはできても、実際に働く人の「生の声」に触れる機会は、意外と多くありません。
そこで中学3年生が挑んだのが、「職業人インタビュープロジェクト」。生徒自身が興味のある職業人にアポイントを取り、夏休みに実際に訪問してインタビューを行うという、まるごと1つの探究プロジェクトです。今回はその準備段階として行われた、2コマ・100分の授業の様子をお届けします。

なぜ「職業人インタビュー」なのか
このプロジェクトが目指すのは、単なる職業調べではありません。目的として掲げられたのは、次の3つの視点です。
自分を知る ―― 将来、自分は社会にどう関わるか?何に興味があるのか?
視点を増やす ―― 変化する社会を生き抜くための、多様なものの見方を養う
構造を知る ―― 社会が「いろいろな人」に支えられていることを知り、自分の役割を考える
この3つが重なる中心にあるのが、「受動的な生徒から、能動的な探究者へ」という変化です。花屋、カフェ、パン職人、エンジニア――生徒が自ら選んだ相手に、自らアポイントを取り、自らの言葉で問いかける。この一連の体験そのものが、大きな学びになります。
プロジェクトの全体地図
今回の授業は、長い探究の旅の「準備段階」にあたります。
班分け&事前準備 → マナー講習(今回はここ!) → メールでアポイントを取る → フィールドワーク(夏休みに訪問・インタビュー実施) → 事後学習(感想文・社会へのフィードバック)
いきなり訪問するのではなく、まず「大人に失礼なく連絡を取る」ための武器(マナー)をしっかり手に入れてから、実際の行動に移していく設計になっています。
1コマ目:「このメール、何がヤバい?」から始まる学び

授業はまず、4〜5人班での役割分担から始まります。リーダー、記録担当、メール担当、タイムキーパー、質問担当――全員が主役として、それぞれの役割を担いながらプロジェクトを進めていきます。
続いて登場するのが、思わず苦笑いしてしまう「悪い例メール」の謎解きワークです。
「〇〇先生お疲れ様です!明日の放課後の探究の打ち合わせなんですけど、用事が入っちゃったんで休んでもいいですか?また今度行きます!」
一見よくありそうなこのメール、実は問題だらけ。件名がない、名乗っていない、話し言葉のまま、そして「休んでもいいですか(休む前提)」と相手の都合を考えずに自分の意見を押し付けている――生徒たちはまず自分の頭で考え、その後班で意見交換をしながら、問題点を洗い出していきました。
先生からの一言が印象的でした。
「相手は多忙な『プロの職業人』である。時間を奪うメールは即ゴミ箱へ。」 「マナーとは、相手への『想像力』を形にしたもの。」
厳しくも本質を突く言葉に、生徒たちの表情も自然と引き締まります。

ビジネスメール「黄金の10項目」
謎解きのあとは、正しいメールの型をインプット。件名・宛名・自己紹介・目的・所要時間・希望日時(3つ以上)・返信のお願い・結びの言葉・署名・CC確認――この10項目に沿って、自分たちのアポイントメールを組み立てていきます。
TO・CC・BCCの違いも改めて確認。「TOは質問やお願いをするメインの相手」「CCは“共有”したい相手(今回は進路の先生)」「BCCは名前を表示したくない相手」――社会に出てから当たり前に使う知識を、実践形式で身につけていきました。

2コマ目:AIという「最強の相棒」と共に磨き上げる
2コマ目のハイライトは、なんといってもAIとのコラボレーションです。
「AI時代だからこそ、まずは自分の頭で汗をかく!」
100分のワークショップは、前半50分を「自力で考え抜く時間」、後半50分を「AIとの共創と深掘りの時間」ときっちり分けて設計されています。自分たちでメール文の下書きを仕上げたあとで初めて、AIを“壁打ち相手”として招き入れるのです。
ここでのルールも明確でした。
- 相手の氏名・メールアドレスなど個人情報はAIに入力しない
- AIの回答をそのままコピペしない
- 最後に送信ボタンを押す責任を持つのは自分自身
班を2つのグループに分け、それぞれ異なるAI(Gemini/ChatGPT)に同じ依頼を投げてみて、自分たちの下書きと比較。「丁寧さ」「分かりやすさ」「相手への配慮」「自分たちの言葉になっているか」といった観点で〇△×をつけながら、AIの洗練された言い回しと、自分たちの誠実さ・熱意をブレンドし、最強のメール文を完成させていきました。
「AIの文章は完璧に見えても、中身が空っぽなことがある。AIの便利な言い回しを盗み、自分たちの言葉を磨き上げよう!」
AIを禁止するのでも、AI任せにするのでもない。「人間+AI」というちょうど良い距離感を、生徒自身が体験を通して学んでいく――この設計にこそ、これからの時代に必要な情報活用力の育成が詰まっています。
送信前の「運命の1分間」
メールが完成したら、最後は送信前の最終検品です。
名前・学校名は完璧か
希望日時は複数あるか、曜日は合っているか
教員(進路担当)がCCに入っているか
件名だけで内容が伝わるか
AIっぽい不自然な敬語(「拝啓」「貴社におかれましては」等)が残っていないか
「送信前の『運命の1分間』!一文字の間違いが信頼を損なう。プロとして、チーム全員の目でトリプルチェックだ!」
一人よがりのチェックで終わらせず、チーム全員で確認する。この姿勢自体が、社会に出てからの仕事の進め方そのものです。
この先に待っているもの

メールを送ったら終わりではありません。夏休みには、実際にインタビュー先を訪問し、フィールドワークを行います。
インタビューの質問づくりでは、「はい・いいえ」で終わらないオープンクエスチョンを意識すること、そして「その方にしか聞けない質問」を最低1つは入れることが求められます。
「毎日いつからパン作りを始めますか?」(事実の確認) ↓ 「なぜ早朝から始めるのがいいのですか?」(価値観の発見)
一般的な質問の先にある「なぜ」を掘り下げることで、その人の仕事へのやりがいや哲学に触れることができる――生徒たちはこの「深掘りの技術」も学びました。
そして訪問当日は、代表者からの挨拶「本日はお忙しい中、私たちのためにお時間をとってくださり、ありがとうございます!」から始まり、自分の質問でないときも真剣にメモを取る「プロの態度」で、リスペクトを行動として示します。
保護者の皆様へ
このプロジェクトは、学校の中だけでは決して完結しません。生徒たちがこれから送るアポイントメールを受け取り、貴重なお時間を割いてインタビューに応じてくださる地域の職業人の皆様のご協力があってこそ、成り立つ学びです。
もし生徒からアポイントのメールが届いた際には、多少ぎこちない文面であっても、それは「今まさに正しいマナーを学びながら実践している」証だと温かく見守っていただけますと幸いです。そして、もし可能であれば、率直なフィードバックをいただけると、生徒にとって何よりの学びになります。
ご家庭でも、「誰にインタビューしたいの?」「どんな質問を用意したの?」と、ぜひ話しかけてみてください。自分の言葉で語る姿から、お子様の成長がきっと見えてくるはずです。
AI時代に求められるのは、「正解」を出す力ではない。誠実な対話と、鋭い問い。
その第一歩を、生徒たちは今、自分たちの手で踏み出しています。
