学園ブログ

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常務理事便り

2023年12月08日

Vol 38 2枚のリトグラフ

~雲雀丘学園常務理事 成地 勉~

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 先日、雲雀丘にお住いのある方から、貴重なリトグラフの寄贈を受けました。その方は比較文化論等の研究者でいらっしゃいます。その研究の関係で東山魁夷氏と親しくお付き合いがあり、魁夷の作品を自宅で保管されていました。保管しておくよりも前途ある多くの若者に観てもらった方が良いということで最寄りの学校である本学園に寄贈いただくことになりました。

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 まず1枚は本学の創立70周年記念時に寄贈いただきました。それは魁夷の最後の作品となった「月光」のリトグラフです。原画は長野県信濃美術館東山魁夷館に所蔵されています。亡くなる前年1998年の日展に出品され、その際に「昼間の雪も収まって、色とりどりのスキー客の姿もない。夜の帳と共に静寂が訪れる。どこからともなく射し込む月の光に誘われて、精霊の踊りが始まりそうな澄んだ夜である。」という言葉を付記しています。本当に心が洗われるような透明感のある作品です。

 通常、リトグラフにはシリアルナンバーが付いていますが、本品にはHCという文字が左下の余白に記されています。フランス語、オル・コメルスの略で非売品の意味です。作家が見本や寄贈用に刷ったものと言われています。魁夷が寄贈者の方にお渡したものだったのです。

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 2枚目は今年新たに寄贈いただきました。1989年製作の「霧の山峡」です。この作品は同年にドイツで開かれた展覧会向けに制作されました。この年にドイツは東西統一がなされています。魁夷はこの作品を展覧会終了後、ベルリン国立東洋美術館に贈りました。このリトグラフの左下にはEAの文字が見えます。フランス語でエプールヴ・ダルティストの略です。意味は作家保存、本品は魁夷死後、魁夷の奥様より寄贈者の方に託されました。まるで水墨画のような色づかいで、幽玄で、心静まる山峡が描かれています。

 道しるべ4・5階の階段踊り場の壁にかけさせていただいています。生徒、児童の皆さん、教職員の皆さん、来校された皆さん、しばしの時間をこの場所でお過ごしください。きっと穏やかで暖かな空気感に包まれと思います。