学園ブログ

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常務理事便り

2020年10月30日

「川上善兵衛を知っていますか」

~雲雀丘学園常務理事・学園長 岡村美孝~

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「日本のワインぶどうの父」と呼ばれ、自らの生涯と財産を全てブドウ作りにつぎ込んだ川上善兵衛をご存知でしょうか。川上善兵衛は現在の新潟県上越市の大地主川上家の六代目として1868年に生まれました。「三年一作(3年に1度しかまともな収穫がない)」と言われた当時の稲作農家の貧しさを見てきた善兵衛は農民救済のための新産業で、水田をつぶさず且つやせた土地でも栽培可能なぶどう酒作りに着目しました。

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たわわにみのるマスカットベーリーA   運良く佐渡島が見えました。見渡す一面が川上善兵衛の土地でした。



しかしながら良質のワインができる品種はこの地の気候に馴染まず満足なワインが得られませんでした。そこで善兵衛が最後に採った方法は土地に会う優良ブドウ品種を開発することでした。メンデルの法則に基づき1万を超える交雑品種を作りました。この中から我が国を代表する赤ワイン用葡萄「マスカット・ベーリーA」が誕生したのです。



現在、QIV(国際ぶどう・ワイン機構)に登録されている日本の品種は「甲州」とこの「マスカット・ベーリーA」の2種のみです。冒頭、ブドウ作りに全財産を費やしたと言いましたが「マスカット・ベーリーA」を生み出すのに莫大な費用がかかったのです。結果、広大な田畑を売ってしまいました。岩の原ブドウ園の小高い丘からは遠く日本海が見渡せますが日本海まで他人の土地を通らず行けたという逸話が今でも地元に残っています。



さてこの時の危機に手を差し伸べたのが雲雀丘学園創立者の鳥井信治郎。善兵衛は醸造学の世界的権威である故坂口謹一郎博士と親交が深く、博士が二人を取り持ったのでした。



過日私はこの岩の原ブドウ園を訪問しました。今年収穫したマスカット・ベーリーAの樽が氷室の自然冷却の貯蔵庫で静かに眠っていました。2年後に完熟したマスカット・ベーリーAのワインが味わえるとのこと。楽しみに待ちたいものです。



岩の原ワインの創業が1890年、私たちの雲雀丘学園の創立が1950年。ともに鳥井信治郎が縁あって携わった兄弟同士。訪問当日、社員の皆様に雲雀丘学園の様子をお話しし、熱心に聞いていただきました。業務は違っても「やってみなはれ」は一つ、共に頑張ろうと誓い合って話をお開きにしました。

(2020.10.29)