学園ブログ

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常務理事便り

2022年11月07日

Vol 30 剣道日本一

~雲雀丘学園常務理事 成地 勉~

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 11月3日、剣道日本一を決める全日本剣道選手権大会が日本武道館において開催されました。数々の有名選手、歴代優勝者が出場する中で優勝を飾ったのはほとんど無名の愛媛県代表、村上哲彦さん(30歳 愛媛県警)でした。現代の剣道界にあっては遅咲きといって差し支えないと思います。ここ数年は20歳代の優勝者、学生の優勝者が続いていた中での快挙です。村上選手の身を捨てた、遠い間合いからの思い切った面が勝負どころの準決勝、決勝で炸裂し、大会を制しました。実に見事な攻めっぷりであり、実に見事な勝ちっぷりに大いに感動しました。攻めっぷりの見事さは決勝戦で如実に感じられました。決勝戦では先に面を一本取りましたが、それを守るような姿勢は一切見せることなく(今回は制限時間5分間、先に2本とったほうが勝ちですが、制限時間が来れば、1本でも勝利です。)厳しく攻め続け、2本目も見事な面を決めました。相手は優勝候補最右翼、世界選手権者でした。

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 しかし、それ以上に驚いたのは翌朝の朝刊を見た時でした。

実は村上選手は愛媛県警に入署してすぐに、左手首の骨が壊死する病気にかかり、握力は5Kg程度まで落ち、1年以上稽古をすることができなかったと書かれていました。ライバルたちがどんどんと力をつけていく中、あきらめずに黙々と足腰中心の鍛錬を続けたのです。警察剣道は大変厳しく、選手として活躍できなければ後々、剣道教官として警察官人生は厳しくなります。ここに不屈の強い意志を感じずにはいられません。人生をかけて至難に打ち勝ったといってよいと思います。

 また、村上選手は生まれも育ちも愛媛県人です。今や剣道においても他のスポーツと同様に剣道留学は当たりまえ、有力高校には全国から優れた才能の少年たちが集まり、切磋琢磨し、更にそこで優秀な成績を修めた少年たちは有力大学に入り活躍し、やがて警視庁や大阪府警に入り日本剣道を支えていくというのが典型的な成功パターンでした。村上選手は故郷を愛し、子どもの頃から故郷で厳しく修行を続け、高校、大学も愛媛県内、職場も愛媛県警です。強くなるための環境ということではかなり不利な選択をしています。それにもかかわらず、愛媛県代表として初の頂点に立ったのです。まさにこれも並外れた意志と努力の賜物かと思われます。まさに近鉄が生んだ大投手、鈴木啓二氏の座右の銘「草魂」剣道人であることが想像されます。

 こうした経歴の村上選手が頂点に立ったことは我々にいくつかのことを示唆してくれます。困難、苦難を前にしても諦めるのではなく、そこを突破しようとする意志力、パッションこそが重要であること、場所や機会を選ばなくても工夫と努力を続ければいずれ道は拓けていくということなどです。

 自分の不幸を口にする前に、あるいはおかれた環境に不満を言う前に、それを克服しようとする強い意志力をもって、置かれた環境の中で精一杯に努力を続けられる人材の育成が我々には求められています。素晴らしいことを教えてくれた村上選手の剣道日本一でした。