学園ブログ

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常務理事便り

2017年06月08日

学園長に就任して
(学園誌「ひばり」掲載分)

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「君たちは甲子園に一イニングの貸しがある

 そして 青空と太陽の貸しもある」

この詩を書いた作詞家・阿久悠さんの記念館が、明治大学にできたことを聞いていたので今年の連休に行ってきました。阿久悠さんは昭和の歌謡界で、数々のヒット曲を世に送り出したと同時に、大の高校野球ファンとしても知られています。観戦の時の詩をたくさん残していますが、そのうちの一編の一部が冒頭の詩です。

 これは一九八八年の夏の甲子園に初出場した岩手県立高田高校に贈られたメッセージです。高田高校の相手は滝川第二高校、試合開始から小降りだった雨は回を追うごとに激しくなり、グラウンドのあちこちには水たまりができました。ぬかるみの中でのゲームでユニフォームは泥だらけになりました。そして試合は中断、十一分後に主審は試合終了を宣告しました。

 九対三、五六年ぶりの降雨コールドでした。高田高校ナインは一イニングを残して甲子園をさらなくてはなりません。

 「一イニングの貸し」。阿久悠さんは何という誇りある表現をしたのでしょうか。高田高校は敗戦ながらも雨中、堂々と戦いました。悔いなし、それだけで十分。その上で高田高校はあの甲子園に「貸し」を作ったのです。誇りある「貸し」はいつまでも部員の心の中に生き続けその後の人生に大きな財産となりました。

やがて暑い夏となり今年も雲雀丘学園野球部は甲子園を目指しますが、大切なことは試合に勝つことではありません。クラブ活動を通して人格を磨くことです。勝利することにこしたことはありませんが、生きていくうえで、もっともっと大切なことがあることを掴んでほしいと思います。何も野球部に限りません。仲間と泣き、笑い、語り、時には喧嘩し合って心の成長を目指してください。

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そして何のために練習するかということも大事なことです。いつかテレビでマラソンの有森さんが母校高校の陸上部の指導をしている様子が映りだされていました。部員の練習の動きを見ていた有森さんは気になった生徒を呼び止め、一人ひとりに今何をやっているかを厳しく問い詰めていました。何のために、何を目的として練習しているかは、向上を図るためにはきわめて大切なことです。練習に限ったことではありません。人間というものは、ついつい惰性に流され、楽をする方に走りがちです。

以前、中高の校長室から校庭のアンツーカーを走る生徒の練習風景を見ていました。生徒はコーナーにさしかかると内側にそれ、芝生の上を走っています。これでは何のために走っているのかわかりません。生徒もそして指導者も「何のため」ということを頭に叩き込んでおかないと成長は望めないと思います。



さて私、この四月から学園長に就任しました。雲雀丘学園には幼稚園、小学校、中高等学校とあります。それぞれに園長、校長がいて学園を良くするため懸命の取り組みをしています。しかし校種間の連携や一貫性についてはやや不足の感は否めません。幼稚園から高校まで一五年ありますが、この期間で子供たちをどう育成していくかの考え方が重要であり、喫緊の課題と申せます。

例えば英語教育も日本では時間をかける割には話せない人が多いと言われています。私自身もそのとおりです。一五年でどう話せるようにするかを、校種の壁を乗り越えて取り組まねばならないと思います。他の教科においてもしかりです。

連休前でしたが今年大学に進学した卒業生が私を訪ねてきました。進学して間もないですが、楽しく新鮮な毎日のようで安心しました。高校との違いは自ら求めていかないと得るものはなく、特に少人数の教室では、積極的に発言しないと取り残されてしまうとのことでした。そのためにはみんなと溶け込む力、表現力、伝える力が必要と話していました。

彼とは在学中、朝七時半からの早朝勉強会に何度か出席し、新聞記事を題材に話し合いました。経済問題が主になりましたが正解はありません。どうしてそのような結論を導き出すのかの説明が大事なのです。あえて他人と異なる意見も出しました。こうした雲雀丘学園での勉強会が今、大いに役立っているとのこと、大変うれしくまた頼もしく思いました。

先ごろ「新学習指導要領案」が公表されましたが、改革の方向性についてはどなたも異論はなかろうと思います。問題はどうやって実現を図るかです。「アクティブ・ラーニング」という言葉は使われず「主体的・対話的で深い学び」となりました。基本的な知識を習得したうえで課題の発見や解決を通じて思考力や表現力を磨いていくことが目的です。学習は自らが主体的に取り組み、アウトプットしなければ身に付きません。グループ討論やプレゼンテーションは社会に出ても重要でコミニュケーション能力の向上にもつながります。学園全体の取り組みがますます重要になってきています。(学園誌「ひばり」より)