メイン

2011年05月06日

選特化学 授業の補足16

e320cdi01.jpg
 無機化学を扱っています。周期表を左から右へ順番に説明していき、今日は15族である窒素が出てきました。空気中の窒素N2は安定ですが、自動車のエンジンでは高温高圧なので、一酸化窒素NOなどの窒素酸化物が発生します。一酸化窒素は大気中で二酸化窒素NO2を経て、硝酸HNO3に変わり、酸性雨として被害をもたらします。

 ガソリンエンジンから排出される排気ガスには、大気汚染物質として、一酸化炭素CO,炭化水素CmHn,窒素酸化物NOxが含まれています。最初の2つはガソリンの不完全燃焼によって生じ、NOxは空気中のN2とO2によって生じます。ガソリン車では排気管に仕込まれた触媒(白金Pt,パラジウムPd,ロジウムRhなど)によって分解され、8割以上が除かれています。このうち、NOxはRh触媒によってCOと反応し、N2とCO2に変化します。

 一方、ディーゼルエンジンの場合、圧縮比が大きく、燃料がシリンダー内で完全燃焼するため、不完全燃焼によって生じるCOやCmHnはほとんど発生せず、NOxの発生量が多いのが特徴です。Rh触媒でNOxを除去するには還元剤であるCOが必要ですが、ディーゼルエンジンの排気ガスにはほとんど含まれず、従来のディーゼルエンジンでは多量のNOxが排出されていました。近年は尿素(NH2)2COを添加し、分解によって生じるアンモニアNH3を利用することで排気ガスの問題が解決し、ふたたび燃費のよいディーゼル車が見直されるようになりました。

2011年04月23日

選特化学 授業の補足 15

 無機化学に入りました。メンデレーエフの周期表から始まり、周期律に沿って、同族元素をまとめながら物性を語っています。今年は国際化学年 IYC2011でもあり、もっと化学に関心を持ってほしいと思います。単純に暗記項目と捉えてしまうとつまらない範囲かもしれませんが、化学が社会の中で果たす役割を知ってもらえればなぁと思いながら授業をしています。

 アルカリ金属のところでは、ソーダ工業を扱いました。ソーダ工業は海水を原料に、幅広い産業分野の原料・副原料、反応剤などに使われる化学薬品を製造する工業で、基礎素材産業の一つです。NaOH(苛性ソーダ)を製造する電解ソーダ工業とNa2CO3(ソーダ灰)を製造するソーダ灰工業の2つを扱いました。

 材料のNaCl(塩)は海水を濃縮して作ります。輸入されている塩のほとんどは塩田で濃縮・結晶化させた天日塩で、ソーダ工業の材料となります。一方、国内で製造されている塩は、イオン交換膜で濃縮したものがほとんどです。電解ソーダ工業ではNaCl水溶液を電気分解して、NaOH, Cl2, H2を得ています。NaOHそのものは最終製品になるのではなく、さまざまな物質の製造に利用されています。Cl2は塩化ビニル樹脂など塩素系製品の原材料になります。また、ソーダ灰工業で得られるNa2CO3の半分はガラス工業で用いられます。授業では1783年に発明されたルブラン法や1863年に発明されたソルベー法についても説明しました。1891年に作られたルブラン法炭酸ソーダ製造装置国産第一号機の一部(塩酸吸収塔)が山口県山陽小野田市に現存しています。

2011年03月31日

放射線、放射能…って何? ②

earth_fruit1_3.jpg
 放射線を浴びることを「被曝」といいます。放射線が当たると、原子から電子を弾き飛ばしてしまいます。これが放射線の「電離作用」です。私たちのからだはタンパク質やDNAなどの高分子でできていますから、それが破壊されてしまうことになります。当然、急性あるいは慢性の障害が出てくることになります。

 どのくらいの放射線を浴びると体に影響が出るのかが気になるところです。人体にどれだけの影響を与えるのかを示す単位がシーベルト(Sv)です。放射線を浴びる物体1キログラムあたりに吸収された放射線のエネルギーが1ジュール(J)のときを1グレイ(Gy)としているのですが、これは放射線の種類を区別していません。しかし、放射線の種類によって透過力や電離作用が違うので、それを考慮して修正したものがシーベルトなのです。放射性物質が1秒間にどれだけ原子崩壊をするかを表す単位ベクレル(Bq)とも別物です。放射性物質がどれだけ存在しているかということと、人体にどれだけの影響があるのかということは同じではありませんからね。

 東京電力のサイトに「トリビアな放射線」というページがありました。放射線についての知識を比較的丁寧に説明しています。放射線については「放射線いろいろ」,放射線の単位については「ベクレル,グレイ,シーベルト」が分かりやすいかと思います。

2011年03月29日

放射線、放射能…って何? ①

earth_fruit1_3.jpg
 福島第一原子力発電所の事故が連日報道されています。被曝された作業員の方や避難を余儀なくされている方がいると聞くと、早く収束に向かって欲しいと思います。また、水や野菜などの農作物が汚染されたと聞くと健康被害のことも気になります。気になってニュースを見ていても、聞き慣れない言葉がたくさんでてきて、よくわからないかもしれませんね。理科の授業でもあまり扱わない範囲なので仕方ないのですが、簡単に解説してみたいと思います。

 まず、放射線を出す性質を「放射能」といいます。命名したのはキュリー夫人です。だから、ゴジラが放射能をまき散らすのはおかしいですね。出していたのは放射線か、放射能物質のはず…。では、「放射線」とは何か。放射線にはα線,β線,γ線などがあります。レントゲンが発見したX線も放射線の一種です。α線はヘリウム原子核の流れ、β線は原子核から出た電子の流れ、γ線はエネルギーの高い電磁波です。

 原子の中には不安定で原子核が壊れて、別の原子に変化するものがあります。この反応を「放射性壊変」といいます。化学の授業では、質量保存の法則を基に「反応の前後で原子は変化しない」というお約束がありましたから、放射性壊変は扱いませんでした。同位体の話をしたことを覚えていますか。陽子数が同じだが、中性子数の異なる原子どうしを「同位体」といいます。同位体は同じ元素ですが、「核種」が違います。区別するために元素記号の左肩に質量数を書くのでしたね。この同位体の中に、α線やβ線を出して核種が変わるものがあるのです。これを「放射性同位体」といいます。

 一気には説明できなさそうなので、何回かに分けて説明したいと思います。左巻健男さんが「放射線や放射能」について、雑誌に投稿した記事を見つけたので参考にしてください。電気事業連合会でもこんな映像をみつけました。こちらのほうが分かりやすいかもしれません。「偉人たちとの授業~放射線を知る~その1」

2011年03月13日

選特化学 授業の補足14

 すでに返却している学年末考査【6】の解説です。
リード文を読んで、内容をつかむことができるかどうかがポイントとなります。それぞれの手順を整理していきます。
手順1 試料10.00mLを量り取る。このときに使用する器具はホールピペットです。
手順2 水200mLで薄めた後、シュウ酸アンモニウムを過剰に加える。(Ca2+はすべてシュウ酸カルシウムとして沈殿します。)
 Ca2+ + (NH4)2C2O4 → CaC2O4↓+2NH4+
手順4 シュウ酸カルシウムを硫酸で完全に溶かす。
 CaC2O4 + H2SO4 → H2C2O4 + CaSO4
手順5 硫酸酸性のシュウ酸水溶液を過マンガン酸カリウム水溶液で滴定する。滴定するときに使用する器具はビュレットです。
 2KMnO4 + 5H2C2O4 + 3H2SO4 → 2MnSO4 + 10CO2 + 8H2O + K2SO4
ビーカーの中のシュウ酸水溶液には色はありません。Mn2+もほとんど色がありません(淡い桃色)。赤紫色である過マンガン酸カリウム水溶液を滴下していくと、やがて過剰になり、色が消えなくなります。

 何段階もの化学反応を利用しているので、難しそうに見えますが、整理していくと過マンガン酸カリウムで滴定されたシュウ酸の物質量とカルシウムイオンの物質量が同じであることに気づきます。そうすれば正解を導くことができると思います。東京大学の入試問題から出題しました。後半の電気分解の問題も見ておいてください。

2011年02月22日

中和滴定の実験風景

CIMG0096.jpg CIMG0098.jpg
CIMG0099.jpg CIMG0104.jpg

 特進コースの化学の授業では実験がおこなわれていました。前もって演示実験で説明されているので、てきぱきと操作できていたように思います。なかなか標線に合わせられずに何度もピペット操作をしたり、水酸化ナトリウム水溶液を滴下しすぎて真っ赤に染めてみたりといった失敗はみられましたが、ほとんどの生徒がうまく結果まで導けていたようです。

2011年01月30日

選特化学 授業の補足13

1_volta_2.jpg
 化学電池の単元に入りました。(最近普及している太陽電池は物理電池です。)教科書では、1800年にIl Conte Alessandro Giuseppe Antonio Anastasio Voltaが最初の化学電池をつくったことになっています。そのきっかけとなったのは1791年にLuigi Galvaniがカエルの筋肉に2種類の金属を触れると痙攣がおこるという現象でした。Galvaniはこの「動物電気」は筋肉に蓄えられていたと考えていましたが、Voltaは筋肉の代わりに食塩水に浸した紙を2種類の金属で挟んでも同じように電流が生じることを確かめました。これが、電極に亜鉛と銅の2種類の金属を、電解液に硫酸または食塩水を使った「ボルタの電堆」の発明につながりました。

 電池には電子を放出する還元剤(負極),電子を受け取る酸化剤(正極),負極と正極をつなぐ導体(導線)が必要です。また、負極と正極を電解液に浸して接続しないと、電気回路はできません。ボルタ電池では、負極に亜鉛板,正極に銅板,電解液に希硫酸が使われています。酸化剤や還元剤が電解液に溶解する場合、拡散によって広がるため、酸化剤と還元剤が直接反応します。それを防ぐために、酸化剤と還元剤の容器は仕切り、素焼き板や塩橋で接続する必要がありますが、ボルタ電池ではそれが不完全です。

2011年01月18日

選特化学 授業の補足12 センター試験解説

 大問が4問、小問が28問でした。60分間のテストですから、1問を2分で解くことになります。幅広い出題分野から出題されることと、解くスピードが要求されることがセンター試験の特徴です。大問は「物質の構成」「物質の変化」「無機化学」「有機化学」からそれぞれ25点分ずつの出題です。現在の授業の進度では第2問の問6から後はまだ難しいでしょうね。

第1問
問1a 選択肢が有機化合物だけなので、知らない物質が多いかもしれません。電解質とは水に溶かしたときに電離する物質のことです。酸や塩基,塩などを考えると良いでしょう。③サリチル酸はカルボン酸の一種で、酸のはたらきをします。
  b それぞれの物質の化学式(構造式)が分かれば単結合の個数は分かります。①C2H2は2(C原子間は三重結合),②C2H4は4(C原子間は二重結合),③HCOOHは3,④CHCl3は一般にクロロホルムとも言われる物質で4,⑤CO2は0,⑥CH3OHは5
問2 典型元素は1族,2族,12族~18族の元素を指します。①~④は典型元素を金属元素・非金属元素に分けたときの境目を示しています。
問3 ボーアモデルで元素を示しています。aは窒素,bはフッ素,cはネオン,dはナトリウムですね。窒素分子の共有電子対が3なので②が誤りです。最外殻電子数と価電子数は必ずしも一致しないので気をつけてください。④は価電子数0なので正しいです。
第2問
問1 光合成反応の反応熱を与えられた式から求める問題です。類題を冬休みの課題で出しているので、【8】の解説を参考に計算してください。1273-394*6-286*6=-2807
問2 生成熱・融解熱・蒸発熱が分かっていればそれほど難しくありません。⑤はエネルギー図を描けば分かりますが、上からH2+1/2O2, H2O(g), H2O(l)の順に大きくなりますから誤りです。
問3 メタノール64gは2molですから、完全燃焼によって発生する熱量は726kJ*2です。10%が温度上昇に使われるので、20℃から726kJ*2/4.2J/1000g/kg=34.6℃温度上昇します。
問4 今ちょうどやっているところですね。還元剤としてはたらくということは、自分自身は酸化されているので、酸化数は増加するものを選びます。下線部の物質に含まれる原子について考えてください。①H +1→0,②Cl 0→-1,③O -1→-2,④O -1→-2,⑤S +4→+6,⑥S +4→0なので⑤です。
問5a これも実験をしたから分かりますね。共洗いすると濃度は変化しませんが、液が残る分だけ物質量が変化します。①や④は濃度変化を避けたいので共洗いをしますが、③はビーカーに残る水酸化ナトリウムの分だけ酢酸が中和されてしまうので誤りです。(ビーカー内部を酢酸で洗うのもだめです。)
  b 溶液Cを10.0mL中和するのに0.110mol/Lの溶液Dを7.50mL使ったから、溶液Cの濃度は0.110mol/L*7.50mL/10.0mL=0.0825mol/L。溶液Aを10倍希釈して溶液Cを作ったので、溶液Aの濃度は④0.825mol/Lとなります。

センター試験化学の問題はこちら(YomiuriOnlineにリンクしています)

2010年12月27日

選特化学 授業の補足11

glass_earth6.jpg
 冬期講習では「熱化学」と「中和反応」2つのテーマを取り上げました。中和反応の講義では「酸性雨」のことに少し触れましたが、どのような現象かを確認しておきたいと思います。

 「酸性雨」は大気汚染によって発生するpH5.6以下の強い酸性の雨のことです。酸性雨の原因は化石燃料の燃焼や火山活動などにより発生する硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、塩化水素(HCl)などです。硫黄酸化物は石油や石炭を燃焼させるときに発生するほか、鉄や銅の精錬でも発生するため、工場や発電所が密集する工業地帯で多く観測されます。窒素酸化物は自動車の排ガスに含まれるので、都市部で多いと考えられます。

 19世紀の産業革命時のイギリスでは「マンチェスターのスモッグ」として大気汚染が問題視されるようになりました。公害問題を解決するために、西ヨーロッパやアメリカ東部では、工場の煙突を高くする措置がとられるようになりました。これが国境を越えて、北ヨーロッパやカナダに酸性雨を降らせるようになった原因と考えられています。公害という国内問題が環境破壊という国際問題として認識されるようになった結果、1972年にストックホルムで「国連人間環境会議」が開かれました。「かけがえのない地球 Only One Earth」というスローガンはそのときのものです。開催日の6月5日は環境の日となっています。

 化学,地理,歴史…それぞれの知識をつないでいかないと、智慧になりません。知識を集めるだけではなく、それを生かすためにはいろいろな分野に興味と関心を持ち続けることが大切です。この冬に新聞や書籍を読むことがその一歩になると思います。

2010年12月04日

太陽電池を作ってきました

 期末考査中でしたが、京都でおこなわれた実験研修に参加してきました。テーマは「色素増感型太陽電池の制作」です。エネルギー問題が現実味を帯びている近年、太陽電池は非常に身近なものになりました。設置している家庭も増えていますし、本校でも高校校舎屋上に設置しています。これらの多くはpn接合型であるシリコン系のものがほとんどです。今朝の新聞にも世界最高効率の太陽電池の記事が載っていました。今回製作してきたのは、有機色素としてムラサキキャベツのアントシアニンを抽出し、それを酸化チタンに吸着させ、電解液と一緒にガラスに挟み込んでつくる「色素増感型」のものです。構造が単純で、材料も安価なため、現在普及している多結晶シリコンの1/10程度のコストで製造できると考えられています。

IMG_4927.jpg IMG_4935.jpg
IMG_4953.jpg IMG_4961.jpg

 いずれ生徒のみなさんにも制作してもらうつもりですが、その前に少なくとも3つの知識を身につけてもらわなければなりません。1つ目は植物の光合成のしくみです。太古から太陽の光エネルギーを利用して来た植物から抽出した色素を使用します。クロロフィルやアントシアニンに光が当たるとどのような反応が起きるのかを理解することが必要です。これは生物の授業で生化学を扱うときに学びます。2つ目は電池のしくみです。電池は電子のやりとりである酸化還元反応によって説明できます。授業では化学反応を利用する化学電池を中心に扱いますが、光起電力効果を利用する太陽電池(光電池)にも触れる予定です。これは化学の授業で学びます。3つ目はエネルギー問題を含めた社会とのつながりです。科学の知識は社会に役立てるために使われます。社会に役立つ人材となるべき皆さんはそのために勉強しているはずです。話が長くなりました。では、月曜以降の試験も頑張ってください。

2010年11月19日

選特化学 授業の補足10

 先週から引き続き、中和滴定をおこないました。今回は調製したシュウ酸標準溶液を使って、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を滴定で求めるための操作をおこないました。最初は要領がつかめなくて、終点を過ぎるほど水酸化ナトリウム水溶液を加え、ビーカーを真っ赤に染めていましたが、段々と上手に滴下するようになっていきました。2人一組で実験してもらいましたが、すべての班が時間内に片付けまでできたので、上出来だと思います。来週、この結果をレポートにまとめてもらいます。

IMG_4801.jpg IMG_4802.jpg
IMG_4804.jpg IMG_4810.jpg
IMG_4811.jpg IMG_4812.jpg
IMG_4814.jpg IMG_4816.jpg

2010年11月07日

化学の早朝講習スタート

IMG_4731.jpg IMG_4732.jpg
 地理に続いて、化学でも早朝に講習を始めました。理系を選択する有志を対象としています。予想よりも多くの生徒が参加したため、教室はいっぱいになりました。朝早くにも関わらず、頑張ろうとする姿勢を感じる事ができ、元気をもらうことができました。毎週土曜日7時30分からおこないます。

2010年11月05日

選特化学 授業の補足 9

j0390520.jpg
 今日の7限は化学実験室でおこないました。最終的には中和滴定によって食酢の濃度を求めたいのですが、基本的な操作から取り組むことになります。今日はシュウ酸標準溶液の調製だけで終わりました。シュウ酸を電子天秤で量り取り、メスフラスコに入れるだけのことですが、慣れない操作に手間取って、授業時間は20分以上超過しました。(超過すると予想して7限にして正解。)でも、経験しないと分からないことはたくさんありますから、来週以降も実験を続けてもらう予定です。

 インターネットに動画が流出してちょっとした騒ぎになっていますが、ネットを使った動画の配信は家庭学習においては効果的です。以下にリンクを張っておきますので、京都大学に感謝しながら復習のために視聴しておいてください。
 電子天秤の操作
 メスフラスコによる標準溶液の調製
 ホールピペットなどの器具の共洗い

2010年10月07日

ノーベル賞発表の季節②

医学生理学賞の候補にはiPS細胞を作成した山中伸弥 京大教授の名前も挙がっていましたが、残念ながら受賞には至らなかったようです。京大にはもう一人、化学賞候補に北側進教授の名前が挙がっていましたが、北海道大学の鈴木章教授ら3名にきまったようです。クロスカップリングとよばれる有機物の合成方法を開発したことが評価されました。

250px-Real_graphene.jpg
物理学賞の受賞者はグラフェンを作り出したAndre Geim博士とKonstantin Novoselov博士に決定しましたね。炭素の同素体として、ダイヤモンドとともにグラファイト(黒鉛)を取り上げましたが、グラフェンはグラファイトの1層分だけでできている極薄の物質です。フラーレンやカーボンナノチューブなどの新素材が注目されていますが、グラフェンも熱や電気の伝導性が高く、さまざまなところに利用されそうです。

2010年09月27日

選特化学 授業の補足 8

 ヘスの法則 Hess's Law を扱いました。この法則はヘス Germain Henri Hess が1840年に発表しました。内容はマイヤーが提唱した「ある閉じた系の中のエネルギーの総量は変化しない」とする熱力学第一法則と同じですが、提唱したのが2年ほど早いことには注目するべきでしょう。

 ヘスは水と硫酸の混合比を変えて発生する熱を測定し、化学反応の反応熱は反応前後の状態のみで決まり反応経路によらず一定であることを実験的に確認しました。この法則の有用性は、少数の既知の反応熱を用いて、未知の反応熱を導くことが可能になることです。ということで、その練習のための課題を出しましたが、使えるようになりましたか。基準になる状態を決めて、エネルギー図を描くとわかりやすいですよ。

2010年09月19日

選特化学 授業の補足 7

 熱化学に入りました。化学反応では原子間の結合関係が変化します。
AB + C → A + BCという化学反応でエネルギー図を描くと、下のようになります。A, B, Cがすべてバラバラになっているときに粒子に蓄えられている位置エネルギーを基準にしています。
energy.png
図からわかるように結合関係が変わると、Q=QBC-QABだけ位置エネルギーは変化します。AB間の引力とBC間の引力の大きさは異なるので、これらを引き離すのに必要なエネルギーは異なります。すなわちQAB≠QBCなので、Qは0ではありません。このように、集合状態が変わると、集合状態をもたらしている引力の大きさが異なるためにエネルギーの出入りがあります。エネルギーの収支は一般に運動エネルギーでおこなわれるので、熱の出入りとしてみられることになるのです。これが反応熱です。

2010年09月16日

サマーサイエンスキャンプ報告②

 東海研究開発センター原子力科学研究所,那珂核融合研究所で実習をしてきたK.E.くんのレポートです。

20100910223339.jpg
 霧箱では過冷却のアルコールが放射線であるα線で衝撃が加わることにより液体に変わり、それで放射線の飛跡を見ることができるということが分かりました。
マニピュレータは操作するのがとても難しかったです。自分の名前を書くのでさえ苦労しました。でも実際にそこで働いている人は簡単そうに操作しているのを見てすごいなと思いました。このようなスキルが最先端の技術を支えているのだなと実感しました。
陽電子加速器で行われている中性子の研究やニュートリノの研究などで、今までは原子核の中にはたくさんの物質はないと思っていたけど中間子や陽子はクォークからできているなど色々なことを学ぶことができました。まだ分かっていないことも多いと説明されていたので、今の技術でも解明されていないことはたくさんあるのだなと思いました。
那珂研究所では超伝導体のピン止め効果が凄かったです。それと電子レンジでプラズマ状態を作り出したのにも驚きました。核融合反応では太陽とは違い重水素と三重水素をプラズマ状態にしてから加速させ、それらをぶつけることによりエネルギーを作り出すということを学びました。
放射線は身近な所にあるのだなと思いました。今までは原子爆弾やチェルノブイリ原発事故など日常の生活とは離れたところにあり、怖いものと思っていましたが、使い方を間違えなければとても便利なものだと感じました。
サイエンスキャンプに参加して、同じような目標や興味を持った、本来なら会うこともなかった日本中の仲間たちと出会えて、いろいろな考えや思いを語り合うことができたのでとても良かったです。そしてそこからもたくさんのことを学ぶことができました。
また、普段はなかなか触れられない最先端の技術に触れられてとても楽しかったです。このキャンプで学んだことを学校の勉強や将来のことなどに役立てていきたいです。

20100819110408.jpg 20100819105956.jpg

2010年09月14日

サマーサイエンスキャンプ報告①

 科学技術振興機構が主催するサイエンスキャンプがこの夏もおこなわれました。これは先進的なテーマに取り組み、最先端の研究施設・実験装置等を有する大学・公的研究機関・民間企業の研究所が高校生を受け入れて、研究開発の第一線で活躍する研究者・技術者による直接指導をおこなう、本格的な実験や実習を主体とした、科学技術体験合宿プログラムです。本校からも数名の応募があり、この夏は2名が参加しました。今週は彼らの報告をアップしたいと思います。

 どのようなプログラムなのかは、政府インターネットTVにアップされていますので、参考にしてください。実際に研究している現場でさまざまな体験することで、大学で何を学ぶのかが明確になると考えています。春・夏・冬の年3回されていますので、次の機会にはぜひ参加して欲しいと思います。

サイエンスキャンプ~高校生が最新の研究に挑戦!

2010年09月06日

ELCAS最終選考通過

 8月初めに高校1年生9名で受験したELCAS-最先端科学の体験型学習講座-第3期生の最終選考が届きました。学年からは一次選考を通過した2名のうちの1名が合格しました。彼は2月末まで、月2回京都大学で「化学」の講義を受講することになります。合唱コンクールが終わったらすぐに京都へ行って、インダクションセレモニー,オープン・コアコース,体験学習コース1回目を受けに行きました。今回は高温超伝導体YBCOの制作を実験してきたようです。高い内容の講義に触れてきた彼が、クラスや学年にもいい影響を与えてくれるものと期待しています。
ELCAS 詳細

2010年08月19日

選特化学 夏の課題

sunadokei1_1.jpg

 生物と比べて、化学の課題の目的は分かりやすいですよね。1学期に習ったことの復習だけです。物理化学の領域である粒子論から始め、原子の構造や周期律を扱った上で、電気陰性度の違いによって原子を結合させる様式が異なることを説明しました。金属の結晶格子までが一つの大きな括りになろうかと思います。
 期末考査以降の授業と夏期講習では、化学反応式から物質量の関係を読み取り、質量や体積などに換算することを説明しました。この部分が今回の実力考査の中心となります。ほとんどの生徒が受講していましたから、十分に内容を理解できているとは思いますが、もう一度配付資料などで復習しておいてください。

2010年08月05日

選特化学 講習の補足 3

 4日目は「化学反応式の作り方」を扱いました。目算法や未定係数法については、改めて説明する必要もないでしょう。化学反応の理論をまだ習っていない高校1年生にはそれしか方法がないのが辛いところです。理論化学を学ぶことで丸暗記しなくてもいいのですから、少しでも何とかしたいでしょうね。

 授業で紹介したのは次の3種類です。(1) 有機化合物の燃焼,(2) 中和反応,(3) 酸化還元反応。最初の燃焼はすぐに理解できたようですが、酸が出す水素イオンと塩基が出す水酸化物イオンから水ができる中和反応,還元剤から酸化剤へ電子を受け渡す酸化還元反応は少し難しかったかもしれません。化学反応式を通じて化学反応を具体的にイメージできるようになれば…と思います。明日は講習最終日。これで終わりにするのではなく、自分で復習するきっかけにして欲しいと考えています。

2010年08月04日

選特化学 講習の補足 2

shiyakubin.jpg
 今日は密度 density と濃度 concentration を取り扱いました。どちらも一定の体積に存在する量を指している言葉なので、問題を解く中で混同してしまう生徒もいるようです。前者は存在している量が全体であるのに対して、後者は存在している量が部分であることが異なります。したがって、密度は純物質・混合物のいずれにも当てはめることができますが、濃度は混合物にしか当てはめることができません。例えば、食塩水(混合物)を例に説明すると、密度は1cm3中の食塩水の質量(g)ですが、濃度は1L中の食塩の物質量(mol)です。単位が異なることよりも大切なのは、溶液全体を対象にしているのか、一部である溶質を対象にしているのかです。計算問題を苦手としている生徒の中には用語の定義を曖昧にしているために苦戦していることもあるようです。

2010年08月03日

選特化学 講習の補足 1

IMG_3870.jpg IMG_3873.jpg

 化学の夏期講習で使った単糖 monosaccharide の分子モデルです。分子は原子が共有結合してできていますが、分子が大きくなるとイメージしにくいので、模型で見てもらいました。左側がフルクトース(果糖),右側がグルコース(ブドウ糖)です。炭素原子を黒,酸素原子を赤または青,水素原子を白の粒子で表現しています。どちらも分子式はC6H12O6となりますが、構造が異なるので性質も異なります。このような関係を異性体 isomerといいます。

 画面上で確認したい人のためにリンクを貼っておきます。VRMLファイルなので必要に応じてCortona3D Viewerをインストールしてください。
  フルクトース
  授業では五員環構造を示しましたが、結晶中では六員環をとります。
  αグルコース

2010年06月01日

選特化学 授業の補足 6

pauling (1).jpg
Linus Carl Pauling 1954年ノーベル化学賞,1962年ノーベル平和賞受賞

 分子の構造のまとめとして、大学入試問題に取り組んでもらいました。そこで出てきたオゾンO3や一酸化炭素COの構造はオクテット則で説明できないために苦労したようです。

 まず、オゾンは酸素原子3個が結合してできる酸素O2の同素体です。構造式は次のようになります。
ozone.jpg
左側の状態と右側の状態はきわめて短い時間で入れ替わっています。そのため、実際には単結合と二重結合の中間の性質を示します。この状態を「共鳴」といい、オゾン分子は上記2つの極限構造からなる共鳴混成体として説明されます。前回紹介したVSEPR理論より、オゾン分子は折れ線型となるので、極性分子です。(中心の酸素原子が+に、両端の酸素原子が-の電荷を帯びている状態)

 次に、一酸化炭素の構造式は次のようになります。
Carbon_Monoxide.jpg
この場合もオクテット則を満たさず、共鳴構造で説明されることになります。この共鳴理論を提唱したのが、ライナス・カール・ポーリング Linus Carl Pauling です。

2010年05月21日

選特化学 授業の補足 5

 分子の極性を考えるときに、分子がどのような形をしているかが影響することは授業で説明しました。そのときに、水H2Oは折れ線型になるが、二酸化炭素CO2は直線型になる理由については省略をしました。気になる生徒もいるようですので、かいつまんで解説をします。

 最外殻の電子対どうしは反発しあい、互いに最も離れ合う方角に伸びて分子をつくるという考え方をVSEPR理論といいます。VSEPR理論による分子構造予測の手順は次の通りです。
①電子式を描く。 ②中心の原子から、非共有電子対も含めて電子対がどの方向に伸びるかを考える。③多重結合は束ねる。④電子対どうしが最も離れ合う方向に電子対を伸ばす。⑤電子対の延長線上に結合相手の原子を配置する。
 この考え方で分子構造を予測すると、電子対が4方向に伸びている分子の内、メタンCH4が正四面体型,アンモニアNH3が三角錐型,水H2Oが折れ線型になることがわかります。

2010年05月03日

選特化学 授業の補足 4

robert-s-mullikan.jpg
Robert Sanderson Mulliken 1966年ノーベル化学賞受賞

 電気陰性度について、「電子を離そうとしない,奪おうとする力」だと説明しました。イオン化エネルギーと電子親和力の相加平均で求めるという定義は「マリケンの電気陰性度」のもので、ほかにポーリングやオールレッド・ロコウのものも知られていますが、高校生にはこれでよいでしょう。

 周期表を見ると、右上に電気陰性度が大きいグループ,左下に電気陰性度の小さいグループと分けられます。右上のグループを「非金属元素」,左下のグループを「金属元素」といいます。2つの原子の結合形態が何になるかは、グループの組合せで推定することができます。この結合が、中和反応や酸化還元反応で切れるときに、どのように切れるかについても、電気陰性度によって説明できるのですが、それはその単元に学習しましょう。

2010年04月23日

選特化学 授業の補足 3

Niels_Bohr.jpg
Niels Henrik David Bohr 1922年ノーベル物理学賞受賞

 原子の構造や電子配置について説明しました。分かりにくくて質問が出ていたのは、M殻に収容できる電子数は18なのに、なぜ8個で閉殻構造になるのかという点でした。高校化学では副殻軌道(オービタル)までは扱わないので、「最外殻は8個」と覚えるように言いましたが、気になる人のために説明です。

 K殻,L殻,M殻は主殻とよばれる電子殻です。主殻に収容される電子の最大数は2n2で示されますから、M殻は18個ということになります。主殻の中には副殻軌道があり、M殻にはs, p, dの3つの副殻軌道に分けることができます。原子番号18のArでは、M殻のs, p軌道の8個は満たされています。この次に電子が入りやすいのは、M殻のd軌道ではなく、N殻のs軌道なので、原子番号19のKではN殻に1個追加されます。

2010年04月18日

選特化学 授業の補足 2

51SELbHCSML__SS500_.jpg
 化学が生活に密接に関連していることを話しましたが、ちょうどそれに沿った内容の本が出版されましたので、授業中に紹介しました。日本化学会が編集した「感動する化学 未来をひらく化学の世界」です。東京書籍から出版されています。10章立てで86の話題を紹介しています。理系の進路を考えている人だけではなく、化学の教科書の構成に合わせているので、高校化学を学んでいるすべての生徒にお勧めです。
 第1章 物質の構造,第2章 物質の状態,第3章 物質の変化,第4章 高分子・有機材料,第5章 無機・セラミック材料,第6章 電子情報材料,第7章 食品の化学,第8章 衣料の化学,第9章 生命の化学,第10章 環境とエネルギー
ISBN : 9784487804092

2010年04月12日

選特化学 授業の補足 1

 今日は化学の最初の授業でした。授業での冒頭の質問が「なぜ化学を学ぶのか」でしたね。

 私たちの身のまわりで、化学という学問・研究分野で得られた知見や技術が利用されているからです。化学は生活に直結した実用的な学問であるということもできます。顔料や染料は彩り豊かな生活をもたらしましたし、医薬品や殺菌剤は病気の脅威から私たちを守ってくれます。合成繊維やプラスチックなどの素材は身のまわりにあふれています。農薬や化学肥料がなければ食糧問題は解決しなかったでしょう。便利で豊かな生活を享受できるのは、化学を含めた科学技術の発展のおかげであると言えます。

 ただ、問題がないわけではありません。科学技術の利用は地球環境や人間自身に負荷をかけているという側面もあるのです。21世紀を生きていく君たちは、将来に向けて科学技術をどのように使うかを考える必要性に迫られています。グリーン・サスティナブル・ケミストリー(GSC)という概念も生まれてきていますが、その話はいずれまた。